猫は木登りが得意だ。今日は、公園の中にある木にのぼって枝を器用に歩いて遊んでいる。そこへ、高校生くらいの女の子がやってきて、木のしたにあるベンチに坐った。女の子は、どこか緊張しているようで、それでいてそわそわしている。そこへ、高校生くらいの男の子が走ってやって来た。男の子は女の子の前に立ち、「ごめん。遅くなって。自分から、よびだしたのに。」

と息をきらして謝った。女の子は、ベンチからたちあがり男の子を見詰めた。女の子の頬は少し赤い。男の子は、

「あの、えっと、その。」

と言葉を何か言おうとしているが、小さな子供にでも戻ったように言葉が続かない。そんな男の子を女の子は、見つめていた。

「えっと、バレンタインの時、チョコありがとう。まさか、もらえるなんて思ってなかったから、ちゃんとお礼言えなくて。」

男の子はやっとそう言葉を言ってから、

「あの、これ。」

と、小さな紙袋を差し出した。女の子は、反射的にその小さな紙袋を受け取った。そして、少しの間その紙袋を見ていた女の子は、男の子に視線を戻した。

「あのさ、ホワイトデーまでまだ早いんだけど。」

男の子は、頭を手でかきながら真っ赤な顔で言う。

「ホワイトデーまでまちきれなくて。それで、それ。」

女の子はじっと男の子をみつめている。

「俺も、好きだから。」

真っ赤な顔をしながら男の子が言った。その言葉を聞いて、女の子の目がうるんだ。それから、まるで綺麗な花が咲いた様な笑顔になって、

「ありがとう。」

と女の子は言った。

「そこで、ちょっと座って話しよっか。」

男の子が言い、二人はベンチに人一人分スペースをあけて座った。しかし、お互い緊張しているのか、会話がとぎれとぎれだ。私は、そんな二人の邪魔にならないように、静かに木からおりて、二人の前をいそぎあしで歩いた。

「あ、猫だ。」

女の子が言った。

「私、猫好きなの。」

「俺も、猫好き。」

「一緒だね。」

二人の会話がはずみはじめた。私は思う。二人の春は始まったばかりだ。きっとこれから、たくさんの笑顔の花を咲かせるだろう。少しあたたかな気持ちになって、私は公園をあとにした。