ベトナムの夜はとにかく熱い。

 

特にブイビエン通りの近くにあるバーは、その熱気を感じるのに最適な場所だ。

 

この夜、3人の日本人男子留学生同士でバーに出かけることにした。

 

異国の地での新たな体験に心が躍った。

 

バーに入ると、カクテルを注文して乾杯。

 

しばらくすると、4人の女の子が僕たちが飲んでいるテーブルに近づいてきた。

 

彼女たちは当然日本語を話さないが、その笑顔から「一緒に飲んでもいい?」と聞いているのは明らかだった。

 

その中の一人は特に小柄で、目を引くほど可愛らしい。

 

男子同士で話し合い、彼女たちと一緒に飲むことに同意した。

 

彼女たちは、それぞれ男性の間に入って座り、お酒を注文。

 

しかし乾杯を交わしながらも、言葉が通じないため会話はほとんど成り立たない。

 

お通夜のような静けさの中で、ただ飲み続けることになった。

 

結局、楽しい時間を過ごすどころか、気まずい時間だけが過ぎ去り、女性たちは席を立ち去った。

 

そして、勘定を済ませようとすると、法外な額の請求書が手渡された。

 

目が飛び出るほどの高額で、自分たちは顔を青ざめた。

 

財布の中を確認しても、そんな大金は持っていない。

 

この国は社会主義国家であり、トラブルを起こすと何が起こるかわからない。

 

心の中で恐怖が広がる中、店の奥から大柄な男が現れ、「マネー!」と叫んできた。

 

そして、店の奥に連れていかれ、「女性たちと一緒に酒を飲んだのだから、その分も払え」と怒鳴りつけた。

 

自分たちは必死で弁解を試みた。

 

自分たちは学生であり、お金は持っていないことを示すためにベトナムの学生証を見せた。

 

さらに、「女性たちとは話もできなかった」と説明し、財布の中身を見せることで誠意を見せた。

 

その財布は、万が一のために用意していた第2の財布で、中には少額の現金しか入れていなかった。

 

その結果、相手も少し態度を和らげ、日本円で数千円相当の金額を払っただけで解放された。

 

バーを出ると、みな無事に帰ることができたことにほっとし、笑いながら宿に戻った。

 

宿に戻り、「地球の歩き方(ベトナム)」を開いてみると、同じシチュエーションで被害に遭った旅行者の投稿を見つけた。

 

「バーでは、決して女性と一緒に酒を飲んではいけない」との警告が書かれていた。

 

今回の出来事は、自分たちにとって大きな教訓となった。

 

この経験を通じて、異国の地での注意すべき点を学び、今後の旅に生かすことを誓った。

 

ベトナムの夜の熱さとともに、その危険も身をもって知ることとなったのだ。

 

旅行者としての自覚と警戒心を持つことの重要性を痛感し、ベトナムの夜は一生忘れられない思い出となった。

 

(この内容は、1998年3月の出来事です。)