『ディープ・ライジング コンクエスト』(2002)
監督:デヴィッド・ワース
出演:ジョン・バロウマン、ジェニファー・マクシェーン、ライアン・カトロナ
この映画、一部のサメ映画/B級映画ファンの間ではめちゃくちゃ有名らしい。私は1回は地上波、そして今回は動画配信サービスで観たのだが、今回はこの映画を、「サメがでかい!登場人物がバカ!そしておっぱい!」といったB級特有の観方を根底に置きつつ、ちょっと真面目に考えてみようかと思う。
まずこの映画は、もともとテレビ映画であった『シャークアタック』という作品の3作目だ。2作目からなぜかタイトルが『ディープ・ライジング』になった。重要なのは、原点がそもそもテレビ映画ということで、この時点でかなりの面で制約がかかってくる(予算、描写など)。2作目からはビデオ作品となり、表現的には自由が多少増えたかもしれないが、こういう映画は『トランスフォーマー』シリーズなどと違って、出せばヒットし、作品ごとに製作費が増える映画ではなく、むしろ予算は減っていき、固定ファンのみが手を出す作品となる。そうなると、もちろん第一線で活躍する監督や脚本家や俳優、その他クリエイターを起用するのは到底無理で、使用できるセットや視覚効果の技術にも限界がある。
私はこの映画を、「愛すべきゴミ映画」として最大の称賛を贈りたい。なぜなら、この映画は低予算映画としての限界を理解したうえで、決してインテリぶったりせず、使えるものを徹底的にエンタメとして利用しているからだ。ここから先は、確証の取れていない私の想像も入るので、あらかじめ承知していただきたい。まず、水中でサメが泳いでいるシーンと、人が食われるシーンは、もちろんメガロドンではない(実際には絶滅している)ことと、俳優が演技しているシーンとの画質が違うことから、おそらく利用できるドキュメンタリーかなにかのフッテージだと思われる。そして、後半メガロドンが大暴れするところでは急にサメのサイズがでかくなり、ボートやらなんやらを丸のみしてしまうが、サメの口の開き方がワンパターンなので、おそらくサメの画像を利用して使いまわしていると思われる。したがって映像はチープであり、迫力はおろか、むしろ滑稽に見える。しかし、この映画の製作者はそれを十分に理解しているのだ。金のためなら人の安全や命などこれっぽっちも考えないネットワーク会社社長には、自らジェットスキーでメガロドンに突っ込んでいただく。自分が助かるためには妻(愛人?)からライフジャケットを奪い海に飛び込むクソ野郎の飛び込む先には大きく口を開けたメガロドンのおしおきが待っている。最高ではないか!この映画のメガロドン、前半こそ殺戮を繰り返していたものの、後半はもはやヒーローと化す。これがエフェクトのチープさと見事にマッチして、ばかばかしさとカタルシスが生まれる。あと、大抵こういう映画は、おっぱいを出すバカップルは怪物の制裁を食らうのが基本だが、この映画ではそうはならない。別に海辺で裸でセックスしたっていいではないか?少なくともメキシコのビーチのようにオープンな場所であれば。この映画のメガロドンには、なんとなくモラル観を感じる。まあ一貫はしていないけれど、序盤から暴れまくるという点では好感が持てる。
なんか私の考えにも一貫性がなくなってきたが、そもそもこの作品自体に一貫性などない。先ほども述べたように、前半は無差別に食っていくが後半は徹底的に悪役を食い殺すし、主人公とヒロインの二人の感情にもぶれがある。さっきまで「自分のせいで犠牲者が」と自己嫌悪に囚われていたヒロインが、次のシーンではシャワーセックスかよ!という感じだが、これもサービス精神に他ならない。下手にドラマ性を持たせるより、いかに観客の目を画面から離さないかを考えたほうが、このような映画には吉と出ることも多い。
かなり書きたい放題書いたが、結局タイトルに戻る。限られた予算やエフェクト、セットなんかを最大限利用して、低予算映画であることを隠すどころか誇りに思っているくらいの勢いでエンタメに徹底する。こういう映画を作るクリエイターは、実はかなり頭を使っているのではないか、と思う。
余談だが、高橋ヨシキさんの著書、『続 悪魔が憐れむ歌』の中にあるイーライ・ロスのインタビューで、ロス監督が言っていたことを思い出す。長くなるので要約すると、「映画大学時代の卒業制作では、クラスメイトはみなエイズやら恐慌やら、みんな自分をスコセッシだと思っているのに、家にあるビデオはアニマル・ハウス。だから自分はマクドナルドで血肉飛び散る映画を撮った。教授には、テーマはエンタメだ!と言った」というようなものだ。もちろん、社会や人間のあり方について考えさせられる映画で傑作もたくさんある。しかし、映画とは大衆芸術であり、その根本にはエンタメ性がなくてはならない。ちなみに、ロス監督の時の卒業生で、監督として成功したのはロス監督だけだそうだ。