昨夜やってはいけ無いのはわかって居るが深夜の富士そばに寄ってしまった。

店に入ると渋谷には珍しい川口が似合うスウェットにパーカー姿の若者2人が蕎麦をすすってた。

食券機の前で本日の〆を何で飾るか悩んで居るとヒソヒソと声が聞こえる。

「ステーキ…テレビで、ほらあのステーキ屋の…」

1人の若者がもう1人の相手に僕の存在を伝えようとしているソレだ。


気付かないフリをして食券を購入して彼らの横を通り過ぎようとすると、僕に気付いた若者が、

「あれ、あの!ステーキ屋さんをやられてますよね?あ!井戸さんですよね!」

と名前を思い出したようだ。


このケース3回に1度の割合で、「人違いでは?」と返すのだが
この日はキラキラと輝いていた若者の眼差しに負けて、「わかりますか?」と応える事に。


興奮気味の若者が何かを話したくて仕方ないらしい。
食券を食券代に置き蕎麦をオーダーすると若者がこう聞いて来た。以後会話形式にて。


若者 「井戸さんでも富士そばとか食べるんですね!」

僕 「当たり前じゃないか。何を言ってるんだ。世の成功者の過半数は富士そばを愛してるんだぞ(嘘)」

若者 「マ、マジっすか!」

僕 「本当だよ。だから僕もいつかの成功を願ってこうして富士そばに来てるんだ。」

若者 「本当っすか!じゃあ自分も成功出来ますか!?」

僕 「それは自分次第だよ。」

富士そばの店員さん 「はいお蕎麦あがりましたー。」

僕 「ありがとうございます」

ズルズル。ズ―。(蕎麦すする音)


若者 「井戸さんは富士そばだと何食べるんですか?」

僕 「ズルズル。ズ―。もぐもぐ。 僕か。僕は勿論ホウレン草蕎麦だよ。当たり前じゃないか。ズズズ―。(汁飲む音)」

若者 「え?!ホウレン草?当たり前なんですか??」

僕 「そうだよ。世の中で成功している人は確実にホウレン草が好きなんだよ(嘘) ズルズルー。」

若者 「そうなんですね!知らなかったです!」

若者2 「やべぇ。俺ホウレン草苦手だったぁ。。。」

僕 「ズルズルー。」

若者 「井戸さん。教えて欲しいんですが、どうしたら井戸さんみたいに成功出来るんですか?」

僕 「ズルズルー。もぐもぐ・・・。」

一呼吸置いて。

僕 「先ず一言先に言うが僕は成功者じゃ無い。でもって君にとって成功の定義ってのは何だ?ズルズルー。」

若者 「え??成功の定義ですか??例えばタワーマンションに住んで良い車に乗って銀座とかで飲んだりとか出来る事ですかね。」

僕 「ズルズルズ―。ズ―。」

一呼吸置いて。

僕 「それが君の成功か。僕はそれを一つも満たして無い。それでも君から見て僕は成功した様に見えてるのかい?」

若者 「はい。何百軒もお店をやっててテレビなんかにも出てたらそう見えます。」


食べ終えた丼を下げ台に戻して去り際に。


僕 「俺が思うに、成功と言うのは明日が来るのが楽しみかそうではないか。それだけだと想うんだよ。君は明日が来るのが楽しみかい?」

若者はちょっと戸惑いながら・・・。

若者 「明日朝早くてキツイっす。えへへ」

僕 「そうか。頑張ろう。」


そう言い残して颯爽と店を後にしました。
いつもはコロッケ蕎麦かかき揚げ蕎麦を食べるのですが
この日はたまたまホウレン草を選びました。
珍しい注文をするとこうした珍しい若者との談義をしたりする事になるのですね。
特にオチはありませんが深夜の富士そばでの出来事でした。
僕は富士そばが好きです。

おしまい