タルトの小説倉庫 -2ページ目
「な、何言ってんだお前」
あまりにおかしな寿弥の申し出に
武弘は思わず苦笑いした。
「別に刑事を気取る訳じゃない。
単に俺は篠田さんを殺し、俺を刺し、
その後も平気で殺人を続ける人間を許せねぇんだ」
思わず力が入って
テーブルを叩きながら寿弥は武弘に訴えた。
「そんな事を言い出したら、
俺達警察は被害者に犯人を捕まえる権限を
与える事を認めることになるだろ!」
武弘の語気も必然的に強くなる。
「その警察内部に!!・・・
裏切り者がいるかもしれねぇんじゃないのか?」
武弘は言葉を詰まらせた。
それが事実であるから情けなくてたまらなかった。
「何も本部に出入りする訳じゃないし、
常にお前と共に行動することを求める訳でもない。
俺は俺で調べられるものは自分で調べる。
ただ、一般人の俺じゃどうにもならない事を
刑事であるお前に教えてもらいたいんだ。
もちろん、こっちからの情報は惜しまない」
「でもな・・・」
武弘の気持が揺れ始めているのが明らかなのは、
普段営業の仕事で培った話し相手の心の動きを
読み取るという能力が証明してくれた。
そういう時、
寿弥は決まって
相手に考える隙すら与えずに話し続ける。
「大丈夫だ。
お前に迷惑はかけない。
このまま黙って人任せに
しちゃおけない気持ちってのは、
お前が一番分かるはずだろ?」
「・・・・・・・・・・
情報のやり取りだけだぞ・・・・ったく」
口ではそう言っていたが、
実際武弘にとっても規則さえ無視すれば
悪くない話だった。
一般的に殺人犯は狙った獲物が生きているとすれば、
自分自身の姿を見ている等のリスクもある為、
必ずもう1度狩りに来るのだ。
寿弥は正に狩り損ねた獲物だ。
恐らく犯人は再び寿弥を襲いに来る。
その時に自分が共に行動していれば逮捕に至れるし、
寿弥自身も狙われていると
十分に自覚している今ならば、
そう簡単にやられるような男ではないということは
武弘自身が一番分かっていた。
尚且つ、
今回の事件に関わっている警察関係者は
自分の上司あるいは部下のみだが、
その中に目的は分からないが
極秘情報を流している者もいる。
犯人と繋がっている可能性が
ゼロじゃない人間がいるならば、
どんなに捜査しても
犯人など絶対に捕まえることは出来ない。
つまり誰も信用出来ない。
だから、1人で捜査するよりも、
素人でも超一流の格闘術を持ち、
意外にも頭のキレる、
何よりも最も信頼のおける寿弥は
パートナーにするには最適の人物だった。
犯人の爪と思われる重要な証拠も入手し、
内部に敵がいる事も分かった。
お互い信頼のおける親友と手を組んだことで
少し前進したような気がした。
しかし、
これが犯人のシナリオ通りに進んでいると、
2人は気づく由もなかった。
しばらく無言が続き、
寿弥が自分のカップと武弘のカップに
コーヒーを注ぎ足そうとした時に、
武弘の携帯が鳴った。
少し慌てた様子で武弘はメールを開くと、
文面を見て苦笑いした。
「お前の言うとおりだ」
武弘が小さい声で言った。
「今、プライベートでも親交のある鑑識の奴に
脅し半分で聞いたんだが、
骨の事は事実らしい。
上から俺達にはまだ言わないように
圧力がかかったみたいだ」
「何故だ?
現場のお前達にその情報が下りてこなくて
捜査なんて出来るのか?」
「知るかよ・・・」
武弘は携帯を胸ポケットにしまって、
再び俯いてしまった。
「まぁ・・・
これではっきりしたな・・・。
俺達警察内部に情報をリークした奴がいる。
それも、上層部しか知らなかった情報だ」
武弘は注ぎ足されたコーヒーを1口飲み、
頭を抱えるような姿勢を取った。
「この事件は元々奇妙な事件だろ?
だから最初から担当部署はウチの部署だけ。
情報は他の部署には
決して漏らしてはいけないという事だった。
だから、知ってるのはウチの部署の人間と、
上層部だけ・・・」
「つまり・・・敵はお前の身近にいる・・・」
寿弥が言い難そうにしていた
武弘の代わりに口を出した。
寿弥の目を見ると武弘はまた苦笑いをした。
「その通りだ。俺がこの先、
捜査で何を掴んだとしても誰にも相談出来ない。
その前に、
たった1人では何も出来ない・・・」
どうしたらいい?
寿弥には武弘がそう言って
苦悩しているように見えた。
「俺さ・・・
考えたんだけど・・・
今回の事件、
何か俺が関わってるんじゃねぇかな?」
寿弥の突然の言葉に武弘は顔を上げた。
「だってよ、
最初の女の人はもちろん知らねぇが、
篠田さん、井川だろ?
それに俺自身も被害を受けてる。
4人のうち、
3人が俺の知り合いなんだぜ?
偶然にしては出来すぎじゃねぇか?」
「まぁ・・・言われてみれば確かにそうだが」
「だから、タケ・・・。俺にも協力させろ」
思ってもいなかった事に
武弘はしばらく反応が出来なかった。
武弘は爪と思われる凶器を小さな袋にしまった。
もし爪であれば、気味悪さは一層増すことになるが、
鑑識にかければ犯人像に
かなり近づくことが出来るのも確かだ。
「あとは・・・もう話せるようなことはないぜ?」
棚からチョコレートを出して
皿に少しあけながら寿弥が言った。
あえて井川の話を言わなかったのは、
まだその話は
公にするべきではないと思っていたからだ。
「俺の番か。
トシ、井川って覚えてるか?高校ん時の」
武弘が意外な名前を出したので寿弥は戸惑った。
「あ、あぁ・・・。
覚えてるが、その井川がどうした?」
「殺された」
まさかの言葉に寿弥は思わず大声で驚いた。
「時間的に言って
トシが襲われた時間から1時間後位だな。
電車が走ってる時間じゃないから
犯人は車やバイク、
まさかとは思うがタクシーを使った可能性が高い」
「会ったんだよ、偶然・・・」
「え?」
「昨日・・・篠田さんの所で井川に・・・
会ったんだよ!」
井川は早朝4時頃に
同じマンションの住人によって発見された。
今までの被害者同様に
何者かに首を噛みつかれて死んでいたのだ。
友達ではなかったとはいえ、
同級生の死に動揺していた武弘が
寿弥にそれを話すことによって
自らを落ち着けようとしたが、
逆に武弘の動揺を増加させた。
「あいつ、
今フリーのライターをやってるって言ってた。
篠田さんとその前に殺された女の人・・・」
「伊崎か?」
「そう。2人の事件を調べてるって言ってたな。
何かあの事件には
警察も知らない裏があるって言って・・・」
「何だって?」
裏という言葉に武弘は反応した。
「死んじまったんなら・・・言ってもいいか」
ぽつりと寿弥が呟いて、
何かを決心したように口を開いた。
「かなり追求したんだ。裏が何なのかを。
警察やマスコミに売れば大金になるって言って
大分渋ってたが、
俺が個人的に知りたいだけだと
言ったら教えてくれたよ」
武弘が食い入るように寿弥の話を聞く。
「篠田さんは首の骨を噛み砕かれていた。
あれは人間の成せる業じゃない・・・と」
武弘は黙って何かを考えるかのように
目線を落としたので、寿弥は話を続けた。
「当然・・・
そんな話はバカげていると思って
相手にはしなかったけどな」
「そんな話・・・聞いてない」
武弘が小さな声で言った。
「犯人は人間じゃないとでも言うのか?
こんな都会のど真ん中で
ライオンやワニが人間の首だけを
都合よく噛み砕くなんて考えられん。
首の骨の話はデマじゃないのか?」
「俺にわかるかよ。
とにかく井川はそう言ってたんだ」
「・・・とにかく、
骨に関してはすぐに問い合わせる。
唾液の成分も鑑識結果が出ればすぐに分かるさ。
その話が事実かどうか」
そう言いながら武弘は誰かにメールを打った。
「その話が事実だとすれば・・・
この事件は、
ますます解決が難しくなりそうだ・・・」
メールを打ち終わった武弘がまたぽつりと呟いた。

