
『おアツいところ申し訳ございませんがぁ〜……。』
回線に、アンナ・ベルクが割り込む。
『そろそろ作戦打ち合わせ、してもいいかなぁ?』
アンナは、結局ブライトマンの味方をした。最後の最後、連邦本部の諜報員という立場を隠れ蓑に、ヘントとカイルの死を偽装するための芝居に協力したのだ。
(いい芝居だったでしょ?退役したら、この美貌を生かして女優にでもなろうかな。)
宿舎からの脱出の最中、へらへらと笑いながら、そんなことも言っていた。
『心配かけてごめんね。』
ミヤギに、向けて言う。
「いえ、"ジュニア"からすぐ連絡が入りましたから……。」
『いやあ、ほら、他にも色々、ねえ?』
おそらく、アラン・ボーモントのように、監視がてら2人を引き離す役割でも与えられていたのだろう。
「それは、別に。何も問題ありません。」
『すご、正妻の余裕!』
『正妻って……少尉、欠片も相手にされてなかったじゃないですか。』
カイル・ルーカスも会話に加わる。彼もまた、芝居に付き合わされた。
『え?カイルくん、あたしとヘントくんが付き合ってると思ってたって言ってなかった?』
『少尉!こんな時に和を乱すようなことを……!』
「2人とも静かにしろ。」
ヘントが2人を制する。
「とにかく1点突破しかない。」
ヘントが宣言する。
『作戦もクソもないわね。』
「一応、考えてはいるが。」
ヘントの構想はこうだ。
まず、ヘントとアンナの2機が先行し、敵を引きつける。

『あたしでいいの?ミヤギちゃんじゃなく?』
「君は逃げ回るのは得意だろう。」
『酷!』
なるべく大きな機動を取り、敵を散らすようにアンナ伝える。
そして、ミヤギ機はアウトレンジに離脱する。

『模擬戦の時のやり方ですね。』
「そうだ。カイル曹長はキョウを掩護。」
『"ミヤギ中尉"じゃないんだ?』
「うるさい。」
あとは、ランス・ペンドラゴンとうまく合流できれば乱戦に乗じ、最大戦速で脱出する。エゥーゴの増援には、ティターンズの艦への攻撃を重点的に依頼してある。
『ランス・ペンドラゴンて、砂漠でヘントくんたちが捕虜にしたジオン兵なんでしょ?』
アンナが食いつく。
「そうだ。」
『知り合いなんだよね?』
「……そうだ。」
『イケメンなんでしょ?』
「……聞いてどうする。」
『作戦が終わったら、紹介しなさいよ。』
「君はな、いい加減に……。」
『ここまで協力したんだから、当然でしょ。』
「さっきから緊張感がないぞ、君は!」
『いつもです、中尉。』
『いつもこんな感じなんですか?』
ミヤギの問い掛けに、カイルが、そうです、と応える。
『お恥ずかしながら……。』
ミヤギは、ふふ、と声を出して笑う。
『なんだか懐かしいですね。ね、ヘント?』
『うわ、呼び捨て!アツぅ!!ソーラレイですか!?ここはソロモンですかぁ!?』
『だから、そういうのですって!恥ずかしいなあ、もう……。』
くすくすと笑うミヤギの声を聞きながら、ヘントはこほんと一つ咳ばらいをする。
「そろそろだ、気を引き締めろ。」
”サクラ”からも、敵の接近を示すアラートが届いている。

行くぞ、と、ヘントが告げると、皆、機体を宙に浮かした。
「アンナ少尉とは、本当に何もないからな!」
『分かってるわ、気を付けて。』
ミヤギの優しい声を聞きながら、くだらないことを口走った自分を、ヘントは呪った。これが、最後の会話になったら、どうするというのだ。

「キョウ。」
最後に、もう一度、通信を送る。
「愛してる。」


『わたしも、愛してるわ。』
「必ず、生きて帰ろう。」
『ええ、みんなで、帰りましょう。グラナダあたりで、朝まで飲みましょうか。今度はアンナさんもご一緒に。』
死亡フラグ——という言葉を頭を過った後、そんなものはくらだらないジンクスだ、という、涼やかな声も、脳裏に甦る。約束は、この後の、過酷な戦いを生き延びるための力になる。それは、いつか彼女が言った言葉だった。
「ああ、約束だ。その時は、ハヤミ少尉も一緒だぞ。」
コクピットで、ミヤギが微笑む顔が見える気がした。

そして、青い機体は勢いよくバーニアをふかし、宇宙の闇に消えた。
【#54 Before the storm of the universe / Nov.16.0087 fin.】
次回、
MS戦記異聞シャドウファントム

#55 Rebels
戦う。ただ、自分たちのために——。
なんちゃって笑
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