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 ミヤギからの指示は大体理解したつもりだ。真っ直ぐにマゼランに向かう。マゼラン級は艦体の側面にもブリッジがあり、死角も少ないが、ねらうとしたら艦の下方だ。艦影を有視界に捉えると、下方に潜り込むようにコースをとる。マゼランの巨体の腹に、ビームライフルを1発叩き込んだ。
(ヘント……中尉から、聞いていました。若いが、聡明で腕がいい。優秀なパイロットだと。)
ここまでの行軍の道すがら、涼やかな声でそう告げられると、こそばゆい気持ちになった。
(頼りにしています。)
その、凛としてよくとおる声を聞くと、スロットルレバーを握る手に、俄然力が入ったのを覚えている。
(やってやる——!)

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 バーザムがすぐに気づき、 艦の下に潜り込んでくる。3機だ。予想より多い。他にも、機体がいないか警戒しながら、艦に張り付き、艦体を盾にするようにして飛ぶ。
 エンジンにダメージを与えて、脚を止めたい。しかし、エンジン側に通さないように、敵もうまく展開して威嚇してくる。
(せめてもう1機いれば——!)
 その考えは甘い。それは分かっている。戦いは、持っている駒で進めねばならないのだ。
 とりあえず、手近に見える砲塔にライフルを叩き込もうとするが、同時にバーザムが2機こちらに突撃してきた。
「そりゃ、そうなるよな!!」
艦体スレスレを飛んでかわしたいが、あまり動き回ると、艦の対空砲に捕まる。自然、艦から機体が離れた。
(これでは——囲まれる!)
即座に戦略を変える。
 カイルは機体をバレルロールさせながら、鋭角な軌道を描き、離脱していく。
(すみません、ミヤギ中尉!)
期待に添えなかった。マゼランの艦体に多少のダメージは与えたが、脚は止められなかった。追ってくるMSから逃げ回るので精一杯だ。

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(いえ、十分です——。)
 通信機ではなく、頭に直接、涼やかな声が響く。
 同時に、幾筋かのビームが、マゼランの後方、エンジンブロックを貫いた。激しい爆光と共に、艦体が傾く。

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 続けて、カイル機を追っていたバーザムも1機、後方からのビームに射抜かれる。
『離脱する!"サクラ"に合流を!』

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ミヤギの声が、今度はスピーカーから聞こえた。
 動揺する様子を見せたバーザムを、カイルも1機墜とす。そして即座に、大きく軌道を変えて戦闘宙域から離脱する。残った1機は無視した。追ってくるならば、墜とすだけだ。
「すみません、ありがとうございます。」
ミヤギに礼を言う。
『いえ、当初の作戦を変更したのはわたしです。』
でも、これなら結果オーライです、と、意外と軽い口調で続けた。
『……だが、先程のバーザム。1人、殺してしまいました。』
 後悔を含んだ声だ。
「1人、て……じゃあ、展開していた別の戦力は……?」
『無力化しました。たぶん、死んではいないと思います。』
 バケモノだ、と、カイルは舌を巻く。砂漠の戦いでの話には、尾ひれがついているとヘントは言っていたが、やはり、"伝説のシングルモルト"は伊達ではない。
「……でも、あのエンジンブロックの爆発……俺も、砲塔をいくつか潰しました。乗組員は少なからず……。」
 つい、正論を口にする。
『そうです……そうですね。すみません、最初から、分かっているはずなのに。』

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 いや、分かるのは、むしろ、ミヤギの感覚だ。そうして奪った命は、さっきまで同僚だった者たちの命だ。MSは、パイロットの死の瞬間が見えなくとも、人型の機体が失われる瞬間に、その命を奪ったという実感が迫る。だが、艦への攻撃は、そこで失われている命の姿が見えない分、罪の実感を遠ざける。欺瞞だと理解していても、目の前にはない死からは、目を逸らしてしまう。だが、こうしてMSを稼働させ戦闘行為に及べば、多かれ少なかれ、人は、死ぬ。
 "バケモノ"という彼女に対する認識を、カイルは改める。やはり、彼女も人間なのだ。
『急ぎましょう。ヘントが——!』
そうだ、そして、こうして——愛する男のために、こんな大それたことに加担してしまうのだ。この、どうしようもなく魂の滾りに引きずられるような生き方も、彼女が戦闘マシーンなどではなく人間であることの証だ。
 了解、と、短く返事をすると、カイルは最大戦速で機体を走らせた。

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【#55 Rebels / Nov.16.0087 fin.】






























次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

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#56 Dance your lastdance with you.

ラストダンスは、わたしに——。



なんちゃって笑

今回も最後までおつきあいくださりありがとうございました。

次回のお越しも心よりお待ちしております。