【#56 Dance your last dance with me. / Nov.16.0087】
連中の連れていたもう1機のジムは、ヘントが撃墜した。しかし、バギー・ブッシュともう1機のシュトゥルム・ザックの追撃は、振りほどけない。MSに釘付けになっているため、艦に向かう気配がないのは幸いだが、”シラウメ”が”サクラ”に向けて、徐々に距離を詰めていた。
「やば……ごめん!」
アンナ・ベルクは、自機の被弾を確認して叫んだ。脚部から火を吹いてふらつく。
ヘント・ミューラーが即座に、鋭角な軌道で機体をターンさせ、アンナ機を追うシュトゥルム・ザックに体当たりをかます。

「構わないでいい!」
アンナは通信機に叫ぶ。これでは、あなたも、死ぬ——!
『バカ言うな、艦に戻れ!!』
ヘント機は近づくと、そっと機体を押す。
「ちょっと!」
『応急処置を!すぐ出てこい!』
言うや、再び機体を走らせる。2機のシュトゥルム・ザックがヘント機を取り囲もうとしている。
「死なないでよ!?夢見悪くなるから!」
『なら、早く行って、戻ってこい!!』
ごめん、と、通信機に呼びかけ、"サクラ"の滑走路に向かう。"キッド"らメカニックが、応急処置用の機材を出して待ち構えているのが見えた。
「お願い、急いで!!ヘントくんがやられる!!」
アンナは、機体を寝そべらせたまま、叫んだ。
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ティターンズに反乱を起こしたEFMP第2部隊と、それに呼応したキョウ・ミヤギへの対応を命じられた。久々に、武装して飛ぶ。ミヤギが離反した今、"ブルーウイング"を率いるのは、アラン・ボーモント中尉だ。
(ティターンズめ、どこまでも下衆だ……。)
僚機のジム・スナイパーⅡを3機引き連れ、アランは迷っていた。"ブルーウイング"に明確に命じられたのは"反乱分子に呼応した離反者、キョウ・ミヤギの処分"だが、おそらくその本当の目的は討手ではない。
(手前ぇらの弾除けだろうが……。)
キョウ・ミヤギの高潔さなら、チームの元同僚に銃を向けられない。その発想の卑劣さが、彼らティターンズに素直に従うことを逡巡させた。加えて、先程のシャアの演説だ。
「間も無く接敵する。だが、ミヤギ中尉と戦う必要はない。」
アランは、全機に通信を送る。
「狙うのはEFMPの白いヤツだけでいい。そっちは殺しても構わん。」
ヘント・ミューラーが死ねば、ミヤギ中尉は無力化できる、と付け加える。
「ついでに、お花のマークの母艦もやれ。それで退くも進むもままならなくなる。」
ふと、チタ・ハヤミの顔が思い浮かんだ。
(殺すのは、惜しいな。)
愛嬌がありながらも気が強く、案外可愛いヤツだった。キョウ・ミヤギのような最上級の獲物がいなければ、"口説いてやっても"良いと思えた。
たぶん、艦内にいるだろうが、その時は、仕方なかろう。いや、むしろそれは、"有り"だ。ヘント・ミューラーとチタ・ハヤミ、どちらも失えばキョウ・ミヤギは完全に無力化する。
(俺も大概下衆じゃないか……。)
仲間だった相手の命を切り捨て、駒にする算段に加え、こんなときに、アタマではないところから発されたような思考が過ってしまう。アランは、自嘲気味に笑う。ここ最近で、そういう笑い方がすっかり癖になってしまったように思う。
ティターンズはたぶん、正しくない。だが、エゥーゴも何者なのかも分からない。アランは、軍人としての矜持をどこに持つべきか分からなくなっている。だが、ただ一つ、自分に嫌悪すべき癖を植え付け、キョウ・ミヤギへの、決して届かぬ熱を生み出す元凶——ヘント・ミューラーへの憎悪だけは、ハッキリとしている。
嘆かわしいが、頼りにすべきはその思いのようだ。
アランは、再び自身を嗤い、青い機体を宇宙に走らせた。
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(一発、入りさえすれば……!)
ヘントは焦っていた。シュトゥルム・ザックは高機動だが、その機動性を実現するために、巨大なプロペラントタンクが剥き出しのように機体各所に積まれている。それらに着弾さえすれば、派手に火を吹いて沈むはずだ。
だが、それが、できない。
バギー・ブッシュ中尉の戦い方が巧みなのだ。360°すべての空間を活用できる宇宙での戦い方を知り尽くしている。
上下左右に奥行きを加えた複雑で立体的な機動に、加えて、黒い機体が宇宙では抜群に視認しづらい。
しかし、ヘントの操縦も負けてはいない。2機の連携をぎりぎりでかわし続けている。
『復帰します!』
アンナ機から通信が入る。
「駄目だ!艦を守れ!」
片足のキャバルリーの機動ではシュトゥルム・ザックのカモになる。
『さっきは早く戻れって言ったじゃん!』
言いながらも、アンナは意図を汲んだらしく、乱戦には加わらず、"サクラ"の守りに就く。
(まだか——!?)
ヘントは、待っている。
(キョウ——頼む!)
(ヘント——!)

聞こえた——
「来たか、キョウ!」
『なにっ!?』
ヘントが叫び、思い切り機体を後退させるのと、バギーがプレッシャーを感じ取るのと——そして、遥か遠くから走ったプラズマ光が、もう1機のシュトゥルム・ザックを貫いたのは、同時だった。
『すみません、遅くなりました!!』
待ちに待った、涼やかで凛とした声が、ヘントのスピーカーに飛び込んでくる。

キョウ・ミヤギの乗るガンダム・ヴァルキュリアがビームライフルを放ちながら突っ込んでくる。バギーはそれも、巧みに交わしながらも一度距離を取った。
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ミヤギは、ヘントのキャバルリーと背中合わせになるように寄り添う。カイルのキャバルリーも、"サクラ"の掩護に向かうのが見えた。
『さすがだな"琥珀の鷹の目"。』
「恐縮です。」
再び、シュトゥルム・ザックが突っ込んでくる。と、同時に、7時方向に別の熱源が4つ——
「ジム・スナイパーⅡ……"ブルーウイング"!?」
ミヤギは声をあげた。
すぐに機体が入り乱れ、再び乱戦になる。
一度シュトゥルム・ザックを退け後退しかけた"シラウメ"も、再び前進し始めた。

『アンナ少尉とカイル曹長はそのまま"サクラ"を守れ!キョウは俺と"シングルモルト"だ!』
「ただの乱戦です、それ!」
応えながら、ミヤギはすでに機体を動かしている。
『キョウ……頼むぞ、俺の背中は君に守ってほしい!』
「当然——!」
『違う——これからも——ずっとだ!俺も君の背中を守り続けると誓う、生涯懸けて——!』

「何……何です!?」
ヘント機とすれ違いながら、ミヤギはジム・スナイパーⅡの脚部をビームサーベルで切り裂き、無力化する。こちらを討つことに対する、相手の逡巡が感じられる。隙がある——ならば、無力化できる!
だが、戦闘への集中と同時に、ミヤギが思考すべきは——
「もしかして、プロポーズのつもりですか、それ!?」?
『そうだ!』
ヘントも、ミヤギ機の背後に迫ったジムにライフルを放つ。ヘントの腕では、殺さずに無力化はできない。威嚇程度だが、敵機が離れたところをミヤギが切り裂き、無力化する。
「何考えてるの、こんなときに!」

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【 To be continued... 】