『何考えてるの、こんなときに!』

「いつだって——」
 シュトゥルム・ザックが、間近に迫った。そのまま、組み合う形になる。

「考えているのは——君との未来のことだけだ!」

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叫びながら、ヘントは機体を回転させ、巴投げのように敵機を投げ飛ばした。
「これだけ戦えるならもう受けられるだろう!さすがの俺ももう待てん!復命しろ、キョウ・ミヤギ!」
『復命って……最悪!そのフレーズ!!』
 言って、ヘントの後ろにつき、敵を捌いていく。
「返事は——!?」

『断る理由がないでしょう!!!!』

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『お二人とも、回線、オープンですけどぉ!?』
 アンナが、呆れたような、茶化すような口調で割り込んでくる。
『2人ともすごい機動、完璧な連携だ……まるでダンスだ……。』
カイルは、感動しているらしかった。

『舐めているのか、貴様ら!!』

 激昂するのは、バギー・ブッシュだ。

「うるさい!」

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『邪魔だ!』

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『何っ……!』

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これまでの奮戦も空しく、2機の射撃にバギーの機体はあっけなく火を吹き、爆散した。同時に、"シラウメ"にも火柱があがる。サラミス改が迫り、砲撃を加えている。赤い機体が数機、周囲を飛び回るのも見えた。ようやく、エゥーゴも合流した。
『全機帰投しろ!離脱する!!』
 ブライトマンからの通信だ。ヘントは、ミヤギ機の手を引いて全力で"サクラ"に戻った。
 とにかく、生き残った。

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(脇役もいいところじゃないか……。)
 すっかり癖になった自嘲気味な表情を浮かべ、アランは宇宙を漂っていた。自分でも、いつやられたか分からない。アイツらのふざけた公開プロポーズを聞かされ、すべて、どうでもよくなった。

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(はじめから、付け入る隙など、これっぽっちもなかったか……。)
 まあ、いいだろう。
 アイツのダンスの相手は、これまで嫌と言うほど楽しんできた。
「ラストダンスは譲ってやるよ、ヘント・ミューラー……。」
せいぜい、彼女の力を、世界に魅せてみろ。
「楽しかったぜ、"シングルモルトの戦乙女"……俺の限界を引き出せたのも、お前だけだった。」
アランは、ため息をつくと、憑き物が落ちたような顔で笑った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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 機体から降りると、ミヤギが膨れ面でこちらを見ている。
「無事でよかった。」
 ヘントはその姿を認め、まず、そう言った。
「それは……そうなんですけど……なんですか、あれ?」

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 もっと、ロマンというか、ムードと言うか、と、ごもごもと不平を口にする。
「それだ。」
ヘントは神妙な顔つきで言葉を続ける。
「この戦いをもってキョウ・ミヤギの戦いは終わりにしてもらう。」
は!?と、ミヤギは怒気を含んだ声を上げた。
「何を言って……あなた、7年前の約束の意味分かってないでしょう!?」
「もう8年と言っていいだろう。」
「あの約束をしたのは12月!今はまだ11月!!まだ8年は経ってない!!」
「今は、そんな話をしていない。」
「"そんな話"!?そう、"そんな話"……"そんな話"にわたしは1人で7年も胸を痛めていたわけね!?」
「待て、落ち着け。」
「落ち着け!?落ち着けるもんですか……わたしが、どんな思いであなたを……ああ、もう!"朴念仁"もここまで来ると、殺意すら湧いてくる!」
「話を聞け。」
 2人が、というか、主にミヤギが大声を上げる様子を、ドック内の皆がにやにやして見ている。そういえば昔もこんなことがあった、と、ヘントは思い出していた。

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「おアツいところ失礼しまぁ〜す。」
 無重力のドック内をふわふわと漂いながら、アンナが緊張感のない声で割って入る。
「別の意味で熱くなってる気がしますけど……。」
 一緒に流れてきたチタ・ハヤミが、苦笑を浮かべながら言う。
「これ、必要ですよね、ヘント中尉。」
 チタが持っていた小さな箱をヘントの方に流して寄越した。
「約束通り、チーちゃんに渡してたからね、例の"超重要機密"。」
にやにや笑いながら、褒めてくれていいよぉ、と言う。
「ホラ、あとは邪魔になりますから……!」
チタがアンナの手を引いて流れていく。
「すまない。説明が足りなかった。」
 ヘントは言いながら、その小さな箱の無機質な包みを解く。
「君に機体を降りろとか、退役しろと言っているんじゃない。」
 包みの中からは、深い紺色のベルベット生地に包まれた、小さな箱が出てきた。





















 それは、どう見ても——



















「"キョウ・ミヤギ"としての戦いは、これで終わりだ。これからは、"キョウ・ミューラー"として、俺の隣で戦ってもらう。」

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 開けた箱を、そっと差し出す。
「ここからの、君のダンスの相手は、俺だけだ。」
 そこには、美しく輝く、白銀の小さな環が収められている。
「8年前の約束、そういうことで、構わないな?」
 ミヤギ——いや、キョウは、涙を浮かべてその箱を受け取る。

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「だから、7年です——!」
言って、生涯を共にすることを決意した愛しい相手を抱きしめると、衆人環視の中にもかかわらず、深く、唇を重ねた——。

 "サクラ"は、一路、グラナダへ向かっていた——。



 U.C.0087、11月16日に、中立コロニーであるサイド5宙域内で行われた戦闘行為は、エゥーゴとティターンズによる抗争として記録された。

 本事変はサイド5の主権を著しく侵害する事案として、サイド5政府側から問題視され、地球連邦政府に対して厳重な抗議が行われた。しかし、その後のグリプス戦役終結間際の激戦と、続くアクシズもといネオ・ジオンとの抗争によって、地球連邦政府が混乱、統治能力が著しく低下したことで、その詳細はうやむやのうちに歴史の闇に葬られた。

 ケイン・マーキュリー少佐はその後もティターンズに在籍したが、後方予備戦力として待機のまま、終戦。その後の動向も、歴史の混乱の中で、杳として知れない。

 EFMP第1部隊はエゥーゴとの交戦で、壊滅。その構成員のほとんどが戦死した。同戦闘に参加したT4教導大隊麾下第11広報MS部隊"ブルーウイング"も、装備に壊滅的損害を受けて解隊。こちらは、奇跡的に人的損害は殆ど無かったと言う。

 エゥーゴに合流したEFMP第2部隊は、その後、地球連邦軍の特務部隊に改編されたとの記録も見られるが、グリプス戦役後、混乱を極める地球圏の記録においては、その詳細も不明である。

 彼らの存在は、歴史の幻影の中、朧げな伝説に近しいものである——が、彼らが、そこに生きて、戦ったと言うことは、確かな事実である——それを、覚えている者が、確かに、この宇宙にはいるのだ。



【#56 Dance your last dance with me. / Nov.16.0087 fin.】



Continued in the final episode of season.4