あれから私は考えていた。

おなかがふくらみ始めたこの体で何が出来るかと。

 

でも今の私に出来ることなんか何もなかった。

学歴も資格もない身重の私に今出来る事は

とにかく出費を抑えることぐらい…

 

家賃は大家さんに頭を下げ待ってもらい、

食事はカップラーメンだけでしのいだり、

電気は基本つけずに一日を過ごしていた。

 

Yくんも日々働いてはいたが、支払い期限に間に合わず

これはまずい…と知り合いのボーイさんに相談し、

私は3日程体験、という形でキャバで働かせてもらうことに。

 

もちろんノンアル、体型をごまかすドレスで。

事情を聞いていたのか他のキャストさんも優しくしてくれて

特にしんどいこともなく3日間を終わらせることが出来た。

 

支払いに足りるだけのお金が手に入り、一先ずホッとした。

 

彼は”ありがとう、ごめんな”と私を抱きしめた。

この時はまだ純粋に彼を好きだった私。

”うん、大丈夫だよ”と笑った。

 

すぐに支払いを済ませ、余ったお金は封筒にしまった。

この日はなんだかゆっくり寝れた気がした。

 

数日後、余ったお金で買い物をしようと封筒を出す。

だけど、何度見ても封筒の中は空っぽ。何もない。

 

え、え、なんで?あれ?え、

どこかに移したりもしていない。

 

まさか。いや、まさかだよね…。そんな訳…。

 

夜、彼が帰ってくる。

「おかえり。Yくん、封筒のお金知らない?」

 

黙り込む彼。「ねぇYくん!」私は苛立っていた。

彼は俯いたままゆっくり口を開いた。

 

「わたあめちゃん…ごめんなさい。

どうしても行きたくって…我慢出来なくて」

 

「やっぱり…パチンコ?」私の問いに頷く彼。

 

はぁ…なんかもう言葉にならない。

散歩してくる、そう言って私は外に出た。

 

季節は冬。寒いけれど、今の私には

この風の冷たさが心地よかった。

 

これから、どうしたらいいんだろう。

私たちは夫婦として親としてやっていけるのだろうか。

そもそも、どうやって現状を立て直す?

 

私たちは赤ちゃんを育てていけるのだろうか。

 

私は、久しぶりに母に連絡をし、いろいろと話した。

 

少し連絡をとっていない間に母は転職をしていた。

それに伴い引っ越しをし、Kさんとは付き合っているけど

同居は解消して今は一人暮らしをしているそう。

 

「もうすぐ年末年始だし泊まりにおいでよ」

「Yのことも詳しく聞きたいからさ」母はそう言ってくれた。

 

電話を切った後も、モヤモヤした気持ちでいた。

そんな私に”しっかりしてよ、ママ!”とでもいうように

赤ちゃんがおなかの中から蹴ってくる。

 

そうだよね。そう、しっかりしなきゃ。

大きく深呼吸をし、自宅に戻り玄関のドアを開ける。

 

彼は事の重大さに気づいてくれたかな…

 

部屋に入ると彼は反省しているように、見えた。

 

きちんと話そうと思っていたけど、

あからさまに落ち込んでる彼の姿を見たら

うまく言葉が出てこなくって。

 

その日は重い沈黙の中、眠りについた。

 

それから1週間後。

2011年12月末。出産前最後の年末。