ALL YOU NEED IS MONEY 困っている人の共通項 | 御苑のベンゴシ 森川文人のブログ

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 かつて90年代の半ばに、東京にホームレス生活を余儀なくされている人々と関わりだしてから暫くして、そのようなホームレス生活を始めるようになってしまったきっかけは「借金を返せず利息が永遠に増え続け追いかけてくると思いこんでかつての生活圏から逃げてきた」というストーリーが典型であるという事実がわかりました。2000年頃、新大久保の喫茶店で始めてみた「法律相談会」では、多くの相談者=ホームレスの人々から相談される内容は「かつての借金」という問題が殆どであり、中には「20年近くも前の元本30万円の借金」というようなものもありました。
 
 「それってとっくに時効(消滅時効)じゃん?」というのがその時の私の基本的な答えでしたし、そうでなくても、91年のバブル経済崩壊後、政策的に自己破産を容易化・簡易化した流れにあったため、弁護士として自己破産にせよ、債務整理にせよ、法的な手続きの「選択肢」を提示することは可能、だということになったのです。少なくとも真冬に路上生活をするよりは、そのきっかけとなった「借金」を処理してしまった方がマシでしょうから。

 今からすれば、「当たり前」のことだと思われるでしょうが、社会的に偏見を持たれ働いてさえいない(ジョブレス!)と思われていたホームレス状態の人々と法的な借金問題の処理を結びつけることができたのは、現場にいた湯浅誠くんらの「聞き取り」に傾斜した努力の一つの成果だったと思います(そこから「ホームレス総合相談ネットワーク」が生まれました)。

 ホームレスという問題自体、基本、経済=お金の問題だったということが、当たり前ではなかった、ということです。なにしろ、青島幸男東京都知事(当時)は「(ホームレスは)独特の人生観と哲学をお持ちで、仮の住まいや職を紹介しようと言っても『ほっといてくれ』とあそこにお住みになっている。
道路を占拠して通行人に嫌な思いをさせていることには、それなりの責任を感じていただかなくては」と発言(95年10月20日)しており、それは、当時の社会の「常識」で、弁護士の先輩方の中にも「あんな風に暮らすのにも憧れるよなあ」といった実態をみない「偏見」が当たり前にありました。ホームレスの相談を時々受けている、関わりを持っている私に対しても、「なんで怠けている奴を」とか「近寄らないように言ってね」などバッシングの声が浴びせられたものです。


 ところで、私は、街弁ですので、日常的にも扱う案件は、離婚、相続、借金、労働事件、賃貸借問題、刑事事件など主として個人や中小企業の困りごとなわけです。それぞれの依頼者の資産・経済能力は千差万別ですが、基本的には「お金の問題」に集約されるというのが実感です。刑事事件であっても。いわゆる「お金を持っている人」は、滅多に逮捕されません。そりゃそうだ。

 蓋をあければ、当たり前で、好きでホームレス生活を送る人が増えるわけはありません。様々な問題を法律事務所に持ち込んでくる人たちと同じく、お金の問題で困ってホームレス生活に陥ってしまっていた、ということです。

 21世紀に入り、このお金で困っている、という構造は、ホームレスに限らず、普遍的に拡がっています。子どもの貧困、非正規職の拡大、ブラック企業問題、子ども食堂の増加などなど・・・。

 そういう意味では、やはり、私たちが抱えているお金=経済の問題は、ますます深刻だし、重要な解決課題として、社会問題の根底にずしっと横渡っている、という感覚を改めて受け止めています。

 このようなことを改めて思い出してみたのは、やはり自分の現場感覚をもっと大事にして、社会全体の問題解決に生かそう、と思ったからです。『This Is Japan 英国保育士が見た日本』(ブレイディみかこ)から多くの示唆を受けました。


 「大きなアイディアや理念を掲げて「社会を変えよう」と叫ぶのもいいが、実際に地べたで働いている人々のアイディアや経験を取り込んで政策運営に活かし、少しずつ社会を変えているのは保守党のように見えるが、そこらへんはどうなってるんだい、とマルガンは言っているのだ。P165
・・・おりしも、現代のデモ系の運動は「クラウド」という言葉で表現されている。集英社WEBコラム「3.11後の反乱 反原連・しばき隊・シールズ 第2回 雲の人たち」のなかで野間易通氏は、雲のように集まって雲のように散っていくデモ参加者たちのメタファーが「クラウド」だと説明している。
 グラスルーツはそれとはまったく違う運動の形だ。クラウドのようなフレキシブルさや変幻自在さはないが、どっしりと根を張ってそこにあり、すぐに現れたり消えたりしない。」

 ある時期から、ホームレスの現場からも遠ざかってしまいました。もちろん、自分の中では自分の「活動」、「思考」を「階級的視点」に発展的に進め方をしたつもりであり、時代の要請に従って、やるべきことをやってきたつもりでもあります。しかし、ブレイディみかこさんの本の中に出てくる多くの人たちとは、かつて関わりがあった人も多いのですが、そこで引用される発言には今もその現場で実践している人としての深みが感じられます。

 経済の問題、より身近にはお金・貧困の問題、やはりここに私たち99%側の抱える問題の元凶があると思います、なんだかんだいったって地獄の沙汰も金次第?金こそすべて?ALL YOU NEED IS MONEY?

 弁護士業を始めて、25年以上経過し、ある時期からは自分たちが当事者として攻撃される新自由主義=司法改革と闘うことも余儀なくされましたが、法曹志望者が減少するほどの経済的な魅力の乏しい業種に追いやられつつあります。

 普遍化するこの経済問題の解決、が、社会全体の大きな問題です。空き家が820万戸(全住宅の13.5%)に増加しながら新築マンションを建て続けるような資本主義社会の矛盾の極限化、というか。そうなのだし、そうなんだろうけども、まずは、今日、明日食べていかなければなりません。それが実感だし、互いに伝えにくくても、普遍化してきた貧困が私たち99%側に与えている現実だと思います。

 この現実、現場にいるからこそ目を反らしたくなる現実に向かい合い、グラスルーツ(草の根)として地べたの感覚を活かした何かをすべきではないかと思っています。