『刑部左衛門尉女房御返事(忠孝書)』(佐後) | 細雪の物置小屋

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[参考]『日蓮大聖人の「御書」をよむ 上 法門編』著者・小林正博
発行所・株式会社第三文明社
『日蓮大聖人の「御書」をよむ 下 御消息編』著者・河合 一
発行所・株式会社第三文明社

仏、自身を責めて云はく「我則ち慳貪(けんどん)に堕せん此の事は為(さだ)めて不可なり」等云云。然らば目連は知らざれば科(とが)浅くもやあるらん。仏は法華経を知ろしめしながら、生きてをはする父に惜しみ、死してまします母に値ひ奉りて説かせ給はざりしかば、大慳貪(けんどん)の人をばこれより外に尋ぬべからず。
 つらつら事の心を案ずるに、仏は二百五十戒をも破り、十重禁戒をも犯し給ふ者なり。仏、法華経を説かせ給はずば、十方の一切衆生を不孝に堕し給ふ大科まぬかれがたし。故に天台大師此の事を宣べて云はく「過(とが)は則ち仏に属しなん」云云。有る人云はく「是十方三世の仏、本誓に違背し衆生を欺誑(ぎおう)すること有るなり」等云云。夫(それ)四十余年の大小・顕密の一切経並びに真言・華厳・三論・法相(ほっそう)・倶舎(くしゃ)・成実(じょうじつ)・律・浄土・禅宗等の仏・菩薩・二乗・梵釈・日月及び元祖等は、法華経に随ふ事なくば何なる孝養をなすとも、我則堕慳貪(がそくだけんどん)の科(とが)脱るべからず。故に仏、本願に趣いて法華経を説き給ひき。而るに法華経の御座には父母ましまさゞりしかば、親の生まれてまします方便土と申す国へ贈り給ひて候なり。其の御言に云はく「而も彼の土に於て、仏の智慧を求め是の経を聞くことを得ん」等云云。此の経文は智者ならん人々は心をとゞむべし。教主釈尊の父母の御ために説かせ給ひて候経文なり。此の法門は唯天台大師と申せし人計りこそ知りてをはし候ひけれ。其の外の諸宗の人々知らざる事なり。日蓮が心中に第一と思ふ法門なり。
 父母に御孝養の意あらん人々は法華経を贈り給ふべし。教主釈尊の父母の御孝養には法華経を贈り給ひて候。
(平成新編1505~1506・御書全集1400~1401・正宗聖典----・昭和新定[3]2163~2164・昭和定本[2]1807~1808)
[弘安03(1280)年10月21日(佐後)]
[真跡、古写本・無]
[※sasameyuki※]