東野圭吾『幻夜』 | MEYの観察日誌

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そして、その行動。


オススメ度:★★★★★


実にバッサリなのである。

東野圭吾作品は忠実にディテイルを含ませつつ、伏線を散りばめるが、

その伏線のいくつかは、バッサリと読者のイマジネーションに委ねられている。



阪神大震災前夜から始まる『幻夜』は、

未曾有の天災を経験していること、

そして舞台を関西と東京としているため、

その言葉のアクセントも正しく読め、

悲惨とも言える惨状を身近に味わった立場からも、

非常に違和感無く、その世界観に入り込むことができた。

ヒロイン・美冬の標準語と関西弁、そして舞台の空気を知っている事は、

他の読者よりも堪能できたと思っている。

美冬が雅也に話す「標準語は話せんよりも話せた方がええんよ」という言葉に、

素直に同感してしまったのは、雅也への感情移入を加速させた。

まさにその通りなのである。



序盤はシーンの展開が心地良くバッサリと切り替わるが、

クライマックスでは、読者の心を見抜くかの如く、

シーンの展開がスピードを速め切り替わるのが爽快である。


ラストのラストまで必要最小限の伏線を閉じるに留まり、

魅力を消えそうな幻の様に描くのは作者が持つ魅力と感じ、本を静かに閉じた。

その後のストーリーを深く考えれば考えるほど、

謎が謎を呼ぶ内容になっている蜘蛛の巣の様に美しい伏線の張巡らせ方は、

このシリーズの魅力とも言えるだろう。


幻 夜 (集英社文庫 (ひ15-7))/東野 圭吾

個人的評価:★★★★☆