私は子どもをもたない教員ですから、多様な考え方があると踏まえての話ですが。保護者の方々は、学校側や担任に対して「我が子のためになるようなことをしてくれることを期待している(していない)」「家庭のことやうちの子に対して意見を物申してほしい(ほしくない)」など、さまざまなスタンスの方がいるものだと考えています。

 前者だと、期待に沿わないことがあれば不満が生じますし、期待していない方にとってはどうでもいい。一年が過ぎれば担任も変わるし。

 後者だと子どものことがあれこれと心配だけど言われ過ぎると不安が募ってしまう。ほしくない人は日々の生活でいっぱいいっぱいだから余計なことをしないでほしい。

 というような心理が働いていると思います。

 こういった心理から、学校や担任に対して敵対心が生まれてモンスターペアレントと呼ばれる方が発生したり、真っ当に意見交換してお子さんにとっても有益な対応ができたり、という違いが生じると考えています。

 多くの教員は「モンスターペアレントはごく一部。でも、一部の声が大きいからこそ、疲弊する。」と言います。私も同じ意見です。

 なら、どういう言動がモンスターペアレントのように受け止められるのか。過去に遭遇した、私が感じるモンスターペアレントだった方の例を個人特定できないようにぼかしつつ述べます。


 とあるお子さんが問題行動を時々起こす、という触れ込みで引き継ぎました。そのお子さんは私が受け持った段階では学力にやや不安なところがある以外は真面目でした。ただ、例年校内外において、問題行動を起こしがちで、そのことで保護者の方から怒鳴り込むような電話や、学校に乗り込んで叫び散らかすということがありました。

 今年は安定しているのかな、と思っていた矢先、別の学級のお子さんから「放課後、遊んでいた時に、自分の宝物(お金になるかならないか微妙な、例えば古びた鉛筆一本)をとられてしまった。返してと言っているのに返してもらえない。」と相談されました。

 事実確認のため、当該児童を呼んで、「◯さんから〜ということを聞いたのだけど、それは本当のことですか?」と聞きました。本人は「とったわけじゃなくて、譲ってくれた。でも、返してとは言われていた。そして返していない。」と言いました。

 当該児童同士を対面させて話し合わせてみても、「とった」かどうかのすれ違いはあれど、事実としては「物を返していない」ということを認められ、問題行動を起こした方のお子さんには「返してって言っていたもの、今日中に返せそう?」「返せます。」「とったかどうかは水掛け論(もう少し分かりやすい言い方をした)になってしまうから、そこはもう言いっこはしません。でも、大事にしているものを返してもらえなくて、◯さんは嫌な気分になったんですね?」「はい、そうです。」「これから仲良くしていくには、どうしたらいいですか?」「ちゃんと返して、謝りたいです。」「それが先生もいいと思います。放課後も遊ぶ仲なのなら、相手が大事にしているものは自分も大事にしてあげましょう。」「はい。◯さん、ごめんなさい。」

 という流れで指導。

 物のやり取りが生じていた場合には、指導した事実を報告するのが一般的だと判断したため、「ちゃんと自分で考えて反省もできました。嫌だったことが伝わらなかった時は先生みたいな大人に相談するのも大事ですし、相手がそれだけ嫌だったことを分かるために先生を挟んで話すことも大事なことだったと思います。こうしてお友達関係をよくしていくのも、学校でしかできないお勉強です。お家に帰ったら、返してあげて、終わりにしましょう。でも、こういうことがあったことは、お互いのお家に連絡しておきますね。」

 と伝えた上で、両者の家庭に電話しました。

 まず、◯さんの家はにこやかな空気で「ご連絡ありがとうございます。たいしたものではありませんから、お相手からお話ししたいというようなこたがあったとしても大丈夫ですので。」とお言葉がありました。

 ただ、「そのようにとらえてくださりありがとうございます。子どもにとって、価値ある物はお金を自由に遣える大人とは異なります。小石一つでも、きれいで素敵だなと思う感性があり、大事なものは大事なので、お金のやりとりをしている感覚と同じようにモヤモヤを抱えていたと思います。その気持ちがスッキリできているか、そこだけお話を聞いてあげてください。」と伝えました。

 そして当該児童の保護者、母親に電話した際に問題が発生。

 「お話がありまして。お時間よろしいでしょうか? 〜ということがあったので、返すように指導しました。」と、最後まで話を言い終わる前に

 「はあ!? あのねえ、鉛筆一本ごときの話でしょ!? しかももう使えないくらいのゴミのようなものなんでしょ!? こっちは忙しいのに、急に学校から電話きて何事かと思って電話とったってのに、そんなことで電話してくんな!」

 と、怒鳴られました。

 怒り狂っている人に対して、正論を言っても聞く耳はもちません。なので、私としても不服な対応ではありますが、お子さんがこのままじゃ、せっかくいい感じに反省したのに家庭で歪められる。そう思って、へりくだりながら「そうですよね。学校からの電話って、何だろうって驚かれると思います。驚かせてしまって申し訳ありません。」「お仕事お忙しいですよね。今はご帰宅している最中なんですか? 子育てもされてお仕事もあるなんて、本当に尊敬いたします。さすが△さんです。お子さんからも聞いていますよ。」「心配しましたよね。お子さんが怪我でもしたんじゃないかって、怖かったですよね。私も急な電話がきたらそう思うと思います。お詫びいたします。」

 という感じで、相手を持ち上げつつへりくだることで、とにかくかっかしている頭を冷静にさせることを目的に会話しました。落ち着いてくれたころに、「今回このようなことがありましたが、お子さんは普段、学校では〜とか、〜をしてくれていて、ほんとうに助かっているんですよ。△さんのお子さんってすごいですね。」と褒めることで、笑いながら「そうかしら〜。うちでは全然なんだけどね! そんなことしてるの? ほんと?」と、聞き入れる態勢をとってもらいます。

 「そうなんです。いつも真面目にがんばっているからこそ、そりゃたまにお友達とのトラブルがあっても、しかたないですよね〜。まだまだ純粋で幼いところがあるってことですもん(相手がくだけた話し方していたら合わせた方が良い・・・かなと個人的に思っている)。まあ、今回のやりとりであったものは、大人からしたら大した物じゃないですけど、子どもって何を大事にしているか、その子によって違いますから。そういう理由で、ちょっとした物のやり取りでも、後々のお子さんが困ることになっちゃったら嫌だな〜と思ったので、ご連絡させていただいたんです〜。」

 という感じで、怒鳴り散らしていたのをなんとか宥めて、伝えたいことを伝えました。

 ポイントは、「怒鳴る」「非を認めない」です。大小さまざまなトラブルがどの子でも生じる可能性があるのが学校現場。(校外での出来事だから、本来は仕事の範疇ではないけど、相談されたことだから・・・。)その大小を乗り越えて、「物を盗むのはだめ」「借りた物を返さないのはダメ」といった道徳を身につけていきます。

 だから、そこに気づいてほしいのだけど、お子さんが何かしでかした時に、お子さんを攻撃されたと感じて過剰反応してしまうか受け入れられるか。ここがモンスターペアレントになるかどうかの境い目だと思います。こちらを威圧したところで、良いことなんて何もありません。

 ちなみに、こちらの保護者の方は毎年、乗り込んでくるか電話で怒鳴り込むかの何かしらのことをしていると言われていましたが、私から連絡したこの件以外ではモンスターペアレント的言動が見られなかったので、年度末にほっとしました。

 とにかく、教員が一般的に「これなんかおかしくないか?」という言動が見られない限り、ある程度信用してほしいです。

 子どものためを思っていなけりゃ、なかなか働き続けようと思える仕事ではないです。私も心身を壊して休職しており、今でも沢山の業務について文句がきりないくらいありますが、それでも現場復帰を目指しているのは、やっぱり子どもを育てるということがやりがいに満ちているから。ってことが第一にあるためです。じゃなきゃ、夫がある程度稼いでくれているから転職を考える。夫からも転職はしないのかと言われていますし、なんなら義実家からも言われていました。

 でもやっぱり、自分のクラスの子ってかわいいんですよね。だから離れがたいし、他にももっと濃い指導ができるのではと、特別支援学校の選択肢も増やしているところですし。

 このようなモンスターペアレントにならない心得を持ちたい、という方は、教育現場の働き方が悲惨であるということを踏まえて、それなのに教員を続けている人たちであるということを信じてもらえたら嬉しいな。と深々と思います。


※蛇足

 義両親、特にお義母さんですが、心配性で。夫が先日、義実家に寄った際に「メイさんは収入なくて大変になっているんじゃないのか」「なんなら親戚に聞いたけど特別支援学校なんてのはいいんじゃないか」「いまどんなことをしながら過ごしているのか」「パニック発作は落ち着いているのか」などと質問責めにあったそうです。私もその数日前に一緒に軽い帰省をさせてもらっていましたが、さすがに本人の前では聞けなかったそうで。

 収入は保険と傷病手当と給付金で賄っている(給料の満額ではないしボーナスもないから、軽く節約はしている)し、落ちたら恥ずかしいから言ってなかったけど特別支援学校希望で単位も取れたところですよ、デイケアに通っていて日数を増やそうとしています、パニック発作はまあまあですが働いていたころほどではないですね、とお義母さんに伝えて。

 色々と心配かけさせてしまって申し訳ない。実家とは2年ほど縁切り状態が継続しているので、もはやどうなっているんだかサッパリですが。いちおう、夫は末っ子長男で、お義母さんもお義父さんもご高齢だから病気がちなところが心配ではあるんですけども。でも、ご両親からすると甘えん坊で頼りない夫より、何かあったらお義姉さん達に頼りそうだなと感じています。お義母さんは「お義父さんが先にいっちゃったら、そこはアンタ(夫)が長男だから喪主をお願いしたいわねえ」と言ってましたけども。

 さすがに夫も私も近親者のお葬式なんてのは取り行ったことがないですけど、今時はコーディネーターの方がいるそうですから、何とかなるでしょう。

 両親が死んでも帰らない、と言っている私に対しては、夫は「さすがに引きずってでも連れて行く」と言っているので、やだなぁと思ってますが。あっちがボケる前に法的手続きをとった方がいいのかなと考えることも。

 教え子には家族を大切に、なんて説くくせにね。