だれかに教えたいこと

  小学校教員やっていると、ちょこちょこ悩まされるのが「子供の嘘」です。


 素直で純粋、というイメージの濃い子供なので、一定数の保護者の方は「子供が言っているんだから。」と、鵜呑みにしてしまって、とんでもクレームを入れてくることがままあります。


 もちろん、一定数ですので、お子さんの事を多角的・多面的に見ることができている保護者の方の方が多く、「子供の言うことだから半々に聞こう。」と、冷静に判断してくださる方が大半です。


 ですが、低学年に多いのは「悪気なく嘘をつく。」ということです。


 まだ認知機能が低く、記憶容量も低いため、学校で起きた出来事を「自分にとって都合の良い」展開にして、保護者の方に話す傾向にあります。


 これはこの子にとっての「真実」であるために、「嘘です。」と言ってのけるのは至難の業です。


 他にも低学年を持っている担任に聞くと、やはり似たような出来事はままあるとのことでした。


 私が実際に遭遇した中で、「エエッ」となったのが、「おもらし問題」です。


 一年生を担任していた時です。休み時間もしっかり取り、口癖のように「トイレ行きなよ〜。」と声掛けするのが当然でした。そして、年度初めの学級開きでは「授業中にトイレに行きたくなったら、そっと先生のところに来て、「トイレに行きたいです。」って言ってね。急にいなくなるとビックリしちゃうし、どこに行っちゃったのかなって心配するからね。でも、授業中だからって、トイレを我慢しなくちゃいけないなんてことないからね。授業中にトイレに行く子がいても、みんなはバカにしたりする? しないでしょ? 急にお腹が痛くなったりすることなんて、みんなあるもんね。だから、誰かが授業中にトイレ行っても、そのことでバカにしたりしたら先生は本当に怒ります。」と、必ず話しています。学年に応じた話し方はしますが、一年生だったらこんな感じですね。


 しかしながら、係や当番活動について説明する授業中、おもらしをした子がいました。開始10分くらいだったと思います。様子がおかしかったので、近づいて見てみて気づきました。


 そこで、「ごめんねー。静かに話を聞く感じだったから、言いづらかったよね? ほら、トイレいこっか。そこで保健室でお着替えを借りて、着替えようね。ここは先生が綺麗にするからね。大丈夫だよ〜。」と、他の子たちには読書しているように指示を出して、その子を連れて行き、対処した後に、連絡帳に事の経緯を書いて送り出しました。


 ところが放課後にキレッキレの状態で保護者が乗り込んできて、何事かと思いながら教室で面談すると、「うちの子が、『先生がトイレにいくな!』って行っていたんですけど! 他の仲良しの子も、聞いたら『そうだった』と! どうなっているんですか!!」とまあ・・・。


 最近、ニュースで「トイレにいくな」と言って処罰された教員もいますけれど、ぶっちゃけ、もらされるより授業途中だろうがちゃんとトイレ行ってくれた方がこっちとしては都合が良い。もらされちゃうと、けっこうな時間かけて処理しないといけないし。なにしろ体罰になるし。


 そしてちっちゃい子は、「そうだったの!?」て聞かれると、「うん。」って言っちゃうもんなんです。そういう行き違いがあったことはすぐに悟りました。


 憤慨している保護者の方には、まず最低限のこちらの落ち度として、「トイレに行きづらい状況ではあったことを謝罪」し、それ以外に関しては全く落ち度がなかったと言い切れるので、淡々と年度初めの対応から今までトイレは行かせるように指導していたことも含めて説明した上で理解を求めると、まだふんふんとしていましたが、なんとかわかってもらって帰ってもらいました。「そんな体罰になるようなこと、私は絶対にしません。」と、断固として言い切ると、相手方も「うっ。たしかにそうかも。」となってくれるので。


 といった感じの、自分にとって不都合な真実を、誰かのせいにして都合よく解釈を捻じ曲げてしまい、事実をすり替えてしまうことは低学年によくある話です。


 これを理解してくれている保護者の方も多いのですが、なかなか自分のお子さんのことを「しっかりしている良い子」と認識している(私もその件があるまではそういうタイプだと思っていた)保護者の方は盲目になりがちです。


 成長するとともに、下手に嘘つくとバレる。ということが理解できて、逆に素直になっていく傾向もあったりしますが、日頃から嘘をつきがちな子は日常茶飯事となってしまって、オオカミ少年になりがちです。


 ただ、ストレスから、大嘘をついて周囲を翻弄するお子さんもいます。


 受験生のお子さんがいたのですが、優等生というやつで、様々な習い事にも精を出していたのですけれど、5年生の時から持ち上がりで6年生も受けもった子で。5年生の時は仲良く頼り甲斐がある、慕ってくれる感じだったのですが、まあ6年のクラスに問題児が大量発生(過去記事にもありますが)しており。そちらの対応でてんやわんやして、その子やその他大勢の子にあまり目をかけてやれなかった故の愛情不足か、ご家庭での過剰な期待からか。結論から言うと、自作自演の盗難騒ぎを起こしました。


 自分の作品がないと言い出し、クラス総出で探したら、準備室のような普段子供が出入りするような場所ではないところから出てくる。といったことが2件ほどあり。学年団でも「なんか出てくる場所おかしくない? 作品とかも壊されているわけでもないし。」と疑惑を持ち出したところで、父親が怒り心頭で来校。すぐに学年の子供を全員集めろ! と要求し、当時の校長が頼りなさすぎたもんで、言いなりに。


 そしてあろうことか「お前達のやっていることは立派な盗難だ! 警察に突き出すぞ!」と怒鳴りつけて。


 こーゆー感じに脅かすようなことしても何にもならんから、保護者を子供の前に立たすのはいかんのよ・・・。


 と思っていた後日、また当該児童の紛失騒動が起きて、また変なところから出てきて。こちらも何もアクションしないというわけにもいかないから、アンケートを無記名(といっても繰り上がりだから、ある程度書き方で誰が書いたか分かってるけど)で実施したところ、決定的な文言が見つかり、学級で「誰が盗難騒ぎを起こしていたのかわかりました。でも誰なのかは言いません。これからの学校生活、その子が苦しい思いをするからです。その子にも色々と事情があったのでしょう。理解してあげてください。」と訴えたものの、散々怒鳴りつけられていた子供達は納得せず、特に問題児たちが「納得できねぇよ! 誰なんだよ! なあみんな!」と言い出すのを、「その子に代わって謝ります。申し訳ありませんでした。今後はこういったことは起きないでしょうから、許してあげてください。」と訴えたものの、当該児童に対しての聞き取りは校長からNGが出ており、なぜんなことをしでかしたのか、本心はわからず仕舞い。ただ、学級で牽制したことが功を奏して、当該児童もそれ以上盗難騒ぎを起こさず、保護者にも伝わったのか、散々クレームをよこしていたのにピタリととまりました。


 そんな保護者は、卒業式のときに、「色々とご迷惑をおかけしました。」なんて言ってきたので、「色々ってなんですかあ〜?」と皮肉で返したいところを、晴れの日だからとグッと飲み込みましたが。


 という感じで、一見してしっかりしていそうな子ほど、嘘をつく。オオカミ少年の方が、ツメが甘いので、分かりやすい。(それでも嘘はよくないですけどね。)それが自覚していても、していなくても。


 だから、保護者の方には、お子さんに対して常に俯瞰してみてあげて欲しい。問題行動があるってことは、何かしらのレスキューサインであることもあるのだから。と、思います。


 そして、他人を巻き込む前に、しっかり冷静に考えてほしい。子供は嘘をつくものなのですから。大人だって嘘をつくのだから、人間は嘘をつく生き物なんです。


 子供が学校生活のことで愚痴ってきたときは、「そうなんだあ」「それはいやだったねえ」「それでどうしたの?」と共感して、受け入れてあげてください。それだけでお子さんはストレス発散になります。愚痴を言う時も、多少大げさに言っているときがありますから。


 同じエピソードが何度も続くようなら、担任に相談という形で「〜という話をしてくるのですが、どうなんでしょう? お手数ですが、確認してみていただけますか?」と聞いてくれると、こちらとしても安心して冷静に動くことができます。子供の価値観は大人とは異なりますから、大人からするとちょっとしたことでも大きな出来事に感じることがあります。そういったストレスを乗り越えるのもまた必要な体験でもあると思いますが、お子さんでは手に負えないときに手を差し伸べるのが大人の役割だと思います。適切な対処ができるように、保護者の方と教員とで協力し合えるのが理想だと思います。

 

 

 

 

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