自閉症児が産まれ、その成長と共に周囲との軋轢に立ち向かう母親、家族を含めた理解の得ることの難しさ、学校や家庭での療育を描いた「自閉症児」漫画の名作と言われる作品です。
文庫版は全10巻。単行本は全15巻。作中で原作者の戸部けいこ先生は病気に倒れ、病床で残したネームを元に続編を作り上げた河崎芽衣先生による別巻が2冊。秋田書店から出版されました。連続ドラマ化もされています。
~ここからネタバレ注意~
主人公は東光(あずまひかる)。1歳半という早さで自閉症と診断され、知的障害等も持って産まれました。
社会ルールを全く理解できず、店先のものを盗んでしまったり、他人の家に勝手に入ってしまったりと、様々な問題を起こしてしまいます。
その度に、その母親でありもう一人の主人公である幸子(さちこ)は、迷惑を掛けた先に平謝りで、「どうしたら問題をなくせるか」と奔走します。
サラリーマンの父親である雅人(まさと)は、最初は光の自閉症を認めようとはせず、単なる躾の問題と捉えて幸子を責めていたものの、後に自身が過労で倒れたことがきっかけで今までの行いを振り返り、光の特性も認めるようになりました。
光は幼少からトラブルが絶えませんでしたが、小学校入学の際に特別支援学級に入学することになり、そこで出会った青木先生という、療育について熱心な先生のお陰で、トラブルがありつつも成長を見せることもありと、幸子は青木先生に大きな感謝の心を持ちます。
受け入れ時の校長先生も特別支援学級の扱いをきちんとした目で見ており、校長室の隣に教室を置くなど、特別支援的配慮に心配りする優しい先生でした。
しかし、4年生まで見てくれていた青木先生は5年生の時に転勤。新しく担任になったのは、定年退職前に「見る子が少ないなら楽そう」という理由で特別支援学級を受け持つことになった郡司先生。特別支援の知識がなく、青木先生のおかげで落ち着いていた光もトラブルが頻発するようになりました。
そんな郡司先生にも、言い方を考えながら「このように指導してほしい」とお願いし、何とか交渉を続けて落ち着いた環境に導いていこうとする幸子。
郡司先生とは光が1年生の時に大事故につながる原因を作った関係もあり、微妙な関係が続いていましたが、最終的には郡司先生も光たちの特性をある程度認め、そして1年生の時の事件も反省するのでした。
6年生での担任は赤松先生。指導力のなさを周囲に露見されることを恐れており、幸子たち(他にも障害児がいる)の言動を「モンスターペアレント」と捉えてしまい、最後まで和解することはできませんでした。
そんな特別支援学級での生活、交流学級での生活、交流学級先での友達との関係、なかなか最後まで認められなかったけれど、少しだけ理解を示すようになった雅人の母との関係など・・・まだまだ先が気になる話でしたが、惜しくも原作はそこまでで終わりでした。
後に別巻として、川崎先生が大人になって障害者の就労支援の模様などを描いています。
光は私から見ても重度な方の自閉症児として描かれています。何か起きたらキーキーと叫び声を挙げる。言葉が通じなくなる。触られるのを嫌がる敏感な部分がある。知的障害も持っているために学習内容が健常児に比べて遅れている。実際に、こういう状態の自閉症児も見たことがあります。
そんな問題ひとつひとつに対し、「こうしてみたらどうか」と試行錯誤していく幸子の健闘ぶり。心が病んでも当たり前な状況なのに、めげずに立ち向かっていく幸子の姿に力をもらいます。
自閉症児を持つ保護者の方にはぜひ読んでみてもらいたい、そう思う漫画でした。
そして、ここまで細やかに心理描写や自閉症児の実態を描いた、下調べを行った戸部けいこ先生に敬意を表します。