私が中堅レベル程度の立場だからか、学級にはLD(学習障害)を持っている(かもしれない)子が何人かいます。

 

 最高に多かった時でいうと、確実にLDだと思えるのが2人。LDの傾向が高い子が4人。合わせて6人の子達が30~40人の学級にいます。けっこうな人数ですよね。

 

 一応、いつも掲載している文部科学省の引用がこちら。

 

1.学習障害(LD)の定義 <Learning Disabilities>

 (平成11年7月の「学習障害児に対する指導について(報告)」より抜粋)

 学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
 学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)及び高機能自閉症について:文部科学省 (mext.go.jp)

 

 とありまして、こちらは脳の機能に何らかの問題があってなるものです。

 

 以下からは実例で対処法とエピソードと共に掲載していきます。

 

打てば響くAさん

 

 

 LDだと判断したのは、

 

 1.五十音が低学年のうちに身につかなかった。

 2.単純な計算を指折り数えても間違える。

 3.テストで0~50点が常。

 

 という点からLDじゃないかと判断しました。

 

 保護者の方は気難しい方で、気が合わない担任だとはっきり「嫌い」と断言するような方でした。子供も同様で、「Q先生嫌い。」と言っていました。

 

 私が発達障害を持っていてシンパシーが生まれたせいか、私とは友好な関係を育めることができ、最初は補習ドリル(発達障害向け)を印刷しまくって渡して毎日させたり、丸付けしつつ鏡文字になっているところなどを直したりしていました。保護者の方もコメントや訂正をしていて、最終的に私はチェックするだけになりました。Aさんはとにかく学習に対して何とかしたいという気持ちは強くて、私も限りなく力を入れていました。

 

 Aさんは私が担任する前は問題行動が多く、前担任は一生懸命五十音を教えたり、分かりやすく覚えられるように工夫したり、生徒指導もその都度熱意を入れて行ったりと、担任として何とかせねば! と気合いを入れて指導に当たっていたのですが、最終的に「嫌い。」とまで言われるような関係になってお手上げ状態でした。教員だって人間ですから、嫌われている相手に何とかしたいという熱意は持てませんよ。

 

 私は威圧的で(でもギャップのせいか優しいと担当した子には言ってもらえる。)、悪行に対しては持ち前の自閉症スペクトラムと自己パーソナリティによってガッツリ叱るタイプなので、Aさんも「保護者の方が気難しい方だった。」と引き継ぎを受けていましたが、そんなんで引いていたらやってらんねえよとばかりに、最初は怒鳴って叱ることもありました。

 

 保護者の方曰く、「そうやってしっかりと叱って見てくれる人だから良いんです。」とのことなのですが・・・けっこうな鬼の勢いなのに、その子は「メイ先生、メイ先生」と慕ってくれるし、目で「あれ持ってきてほしい。」と語ると、テレパシーのように本当に持ってきてくれるくらいのツーカーになっていました。

 

 勉強への意識が向いたお陰か問題行動もなくなって、授業の際も挙手発言を積極的に行っていました。(普通の子程度のトラブルはたまーにあったくらいで、信頼して色々任せられるタイプの子になっていました。)(私に気に入られることで学級内でのカーストを上にしようとしていたのか? という疑惑も持っていて、実際に「〇〇は△△なんだよ。」とマイルールを持ち出した際には厳しく、けれど静かに「それはあなたが決めることなの? そんなルールあったっけ? それっておかしくない?」と諭せばやらなくなりました。)

 

 この子、これだけ叱ったり、勉強させたりしているのに、なんで慕ってくれるのかなあと思いました。舎弟みたいな感覚になっていたのでしょうか。私も教員だけど人間。この子の打てば響くところに、強い想い入れがありました。保護者の方も学校で「取り扱い注意」みたいな目で見られていたけれど、私とは和やかに話せて、Aさんエピソードで度々話し込むこともありました。他の保護者に比べて、ダントツに電話する機会が多かったです。

 

 LDの話に戻りますが、漢字50問テスト。どうやらAさんは読字障害の「ディスレクシア(見た字が歪んでいたり、渦を巻いていたりする。)」書字障害の「ディスグラフィア(見た通りのものをそのまま表現することができず、一本線が多かったり、偏と旁が逆転した字を書いたりする。)」両方を持っているっぽくて、漢字など文字を覚えたり、読んだり、書いたりすること全てがとにかく苦手でした。

 

 しかし、保護者の方がとにかく協力的で、私が出した課題(宿題もあるけど、できたらでいいよと言っているものの取り組んでいて、間違いばかりでも毎日続けていた)をしっかり取り組んでいました。

 

 そのうち、読むことがだんだんと上手になってきました。家庭での音読もがんばっているようで、教科書には漢字に全て振り仮名が振られています。〇読みといって、席順に句点がつくところと台詞ごとに一人ひとり音読するという指導を国語の授業で行うことがありますが、この時も気合をいれて自分のタイミングがどこか構えて待って、しっかり読み上げれるようになっていっていました。間違えるときがあっても、近くの子に指摘されたら、音読の成果でよどみなく読めます。

 

 漢字はなかなか覚えられなかったのですが、一度だけ50問テストで合格点に達したことがありました。もちろん、本番のテストではなく、合格点に到達するまで毎日同じテストに繰り返し取り組み、もう当たり前のようにテスト用紙を自分で持ってきて「先生、日付書いて~。」(日付を書くのは前にやったものを持ってきてやりましたという不正を防ぐため)と自分から努力の姿勢を崩しませんでした。そして1か月はかかったでしょうか。

 

 その結果、合格点。このレベルのLDの子を受け持って、そこまでの成果を出せたのはその子が初めてでした。

 

 こうとなれば、私も教師冥利に尽きるなあと感じました。ハッキリとした成果が出せたのですから。いつものツンデレ気質が出てしまい、「よくやったじゃん・・・ここまでがんばったな。」というような言葉しかかけられませんでしたが、Aさんに私の感動が伝わっていたらいいなと思いました。というかもっと感動が伝わるような言い方や表現をしてあげられたらよかったなと後悔しました。

 

 ちなみに算数の方も(というか全ての勉強に)問題があり、おそらくこちらも算数障害の「ディスカリキュア」だと思いました。でも、こちらはちょっと国語の方に比べると微妙な点があり、文章問題はちんぷんかんぷんなのですが、筆算など単純計算になるとわりと正答できるのです。それでも指折り数えてやっていたので、そちらは発達障害向けのプリントを使ってから、学級全体も(他にもLD気質の子がいるし、私には気付けていない子にも有効だから)教科書よりも易しい内容の問題プリントに取り組ませました。スモールステップですね。

 

 他にも私がオリジナルで作ったプリントに取り組ませたり、時にはNHKforSchool(NHK for School)のような動画を見せたり、YouTubeでも分かりやすくおもしろく解説しているチャンネルを見つけては見せたりしつつ、様々な手段で習得を試みました。

 

 最初は直接指導を入れることもありましたが、私の言葉では説明されてもなかなか理解し辛いようで力不足を実感しました。しかし、子供たち同士で「〇〇ってことね!」「〇〇だから・・・〇〇になる?」などの意見を聞くことの方が、子供にとって分かりやすい表現になっている分、下手に私が直接指導するよりこっちのほうが良いみたいで、「そういうことね!」と口に出すことが多く、とにかく授業中に子供に発言させて説明させるようにするようにしました。

 

 ちなみに上記で簡単なプリントを全体で取り組んでいたという話ですが、それでは物足りないという子も当然出てきますので、その学年でまだ未履修のプリントや上級向けのプリント、様々なプリントを用意しておいて、「早く終わったらあっちのプリントに取り組むか、読書していてね。」と全体指導していました。これは毎年、どの学年を受け持っても同じように対策しています。

 

 これがLD(だと思しき児童)児への対策とエピソードでした。やはり、保護者の方の協力って大事だなぁ・・・と思いました。打てば響く。教師にとってこれほどやりがいのある子はないと思う、素敵な児童でした。