この病気にかかってから、死神が私のところに降りてくることがしばしばあった。

その度にいろいろ悩んではみるものの、何かと理由をつけて結局ご帰還いただいていた。

だが、仕事を失い、できることも限られてきて、楽しいと思えることがどんどん減ってきた頃からだったか…最近では私が死神を呼ぶことが多くなった。

ところが、呼んだら呼んだで冷たいもので。

「最近は自己都合案件を減らせって国がうるさいし」
「猫飼ってるからそうそう簡単には…って言ってたじゃん」
「ひとりっ子のくせに親の介護どーすんの?」

などと、言い訳交えてたたみかけてくる。




きっと、死神は呼ぶものではない。

先のように「よっ!」と挨拶に来るものでもない。

本人が知らないうちに、気づかないうちに、少しずつ少しずつ近づいてきて、手が届くほどの距離まで来たら、そっと白い布を顔に覆わせるのではないか。

どうして急に…
と周囲が驚こうとも、実はかなり前から死神さんに目付けされてたのではないかと。

特に自死の場合における「死神メソッド」はそんな感じで働いているのではないかと、私は最近ボンヤリと思うようになっている。

だからきっと、冒頭の死神と私とのやりとりは、おそらく自身の死に対する願望やら恐怖やら葛藤やらをクリーンナップさせるための、人間本来が持っている「脳内の自浄本能」なんだろう…と考えている。

私に白い布が近づいているかは、誰も知らない。