けっこう意思疎通の難しいおばあさんがいます。

ず~~っと「しゅっ、しゅっ、しゅっ、…」と

言いながら、自分の手をさすったり、

テーブルの表面をなでたりしています。

 

職員がトイレやお風呂の声かけしても、

「ごにょ、ごにょ、ごにょ…」と言いながら

やんわり拒否します。

イスから立たせようとして両手を引くと

腰が引けたようになって、みけんにしわが

寄ります。

 

しかし、私の言うことは聞くんです。

それはどうしてか。

「田中」という名字だから、でした。

 

ややうつむき加減で座っているおばあさん

の前に私が立つと、ちょうど名札が見えます。

おばあさんに声をかけるときは、ベルトの

ちょっと上あたりに名札をつけます。

 

その名札を見ると、おばあさんは必ず

「あら~、田中さんだって、うふふ」と

笑って私の顔を見つめます。

「そうです~、お迎えに来ましたあ」と

私は手を差し伸べます。

すると、おばあさんは手を取って

すっくと立ち上がるんです。

「はい~、どうぞ、どうぞ」と言って

目的の場所へ案内するのです。

 

「私も田中でしたのに。」と

お決まりの会話を始めます。

そうです、そのおばあさんも

旧姓「田中さん」なのでした。

 

「へえ~、そうなんですか!」

と言ってみたり、

「知ってますよ~、米屋さんですよね」

と言ったり、その日の気分で

言葉を変えてみます。

 

「田中って、なかなかないですよね」って

言われるけど、う~ん、全国で4番目に多い

名字なんですけど(笑)(2018年どこだか調べ)

それにデイサービスの職員さんにも、

もう一人いるじゃないですか。

 

そんな感じで会話を楽しんでいます^^