次の日、先生から許可をもらって
彼女に電話しました。
「大丈夫だったわ。入院できるって。
だけど、本当に帰れる?
ご主人にもちゃんと話しとるか?」
「『そうなったら仕方ないな』って
言ってもらっとる」
一番困るのが、
入院したのは良いものの、
なかなか家に連れて帰られず、
最後には「どっか施設探して」
という言葉。
本当に家族の協力があって
実家に戻れて介護できるなら
いいんだけど、いくら幼なじみの
頼みでも、そんな無責任なことは
許し難いのです。
「話が決まったら早いほうがいいわ。
ただし、こっちの入院は1か月ぐらいだよ」
と釘を刺しておきました。
彼女はちょっとビックリしていましたが、
「分かった」と言って電話を切りました。
それから3日後。
彼女から電話がありました。
「主人とも相談したんだけど、
今の状態じゃ家に連れて帰れんし、
とりあえず施設を探してもらうわ」
という返事でした。
「せっかくいろいろ手配してくれたのに
ゴメン」と言って彼女は電話を切りました。
別に私は彼女に対して
憤ったり軽蔑することは
ありません。
だって、自分の大切な母親を
家に帰りたがっている母親を
みすみす施設に入れたくない、
という気持ちは痛いほど分かるからです。
(自分が同居をしてまでも…)と
考えるのはとても素晴らしいこと。
ただ、気持ちだけでは乗り切れない。
在宅で介護することは思った以上に
大変なことです。
介護する生活に入る前から
完璧にイメージできる人なんて、
自分が介護職をしている人ぐらいしか
いないと思います。
「1か月後に介護生活が始まる」。
このとき、初めて、リアルな介護生活が
彼女の心に思い浮かんだんだ、と
思いました。
同時にそんな彼女の願いに
応えられなかった私は
彼女には見えなかっただろうけど
電話の前で頭を下げました。
(おわり)