ひさしぶりにすごい認知症の人を
担当することになりました。
最近は、認知症の早期発見・早期治療の
キャンペーンが功を奏しているのか、
認知症が大変で困ってから相談が来ることは
少なくなってきている気がしますね。
奥さんと2人暮らしのご本人。
症状が現れて約10年、誰にも相談せずに
家で看ていたそうです。
近所ではうわさになっていたそうで、
時々、地域包括支援センターから
介護サービスの利用を勧められていた
そうですが、奥さんは受けつけず。
「最期まで私が面倒をみます」と。
しかし、最近、ご本人が奥さんに
手を上げることがふえてきて、
恐くなった奥さんからSOSが出て、
今回の利用になったわけです。
さっそく毎日デイサービスを計画しました。
慣れない環境ですから、混乱を招かないように
奥さんと下見を兼ねた見学をしていただき、
利用が始まってからも担当者を決めて
マンツーマンのように関わってもらいました。
奥さんが
「この人、まだ現役の気持ちでいるから」
と言われるので、調子を合わせて。
「君はどこの支店だね?」
「○○支店の××です」
「初めて会ったかな?」
「そうです、私のほうは
支店長のことを、うわさで
よ~く存じておりますが」
「そうか、よろしく頼むよ、
わっはっは」
といった感じです^^
1週間ぐらい経った頃でしょうか。
デイサービスに行った時、
こんな話を聞きました。
「この間、『支店長!支店長!』って
声をかけたら、
『私はもう引退してるから』って
言われちゃったんですよね~」
認知症のことが書かれたある書物に
「過去に戻ったような言動のある人は、
現実の辛さから逃げたいという心理が
はたらいている」と書かれていたのを
思い出しました。
現実の辛さから逃げる。逃げて、
自分が一番輝いていた時代に
戻ったような振る舞いをする。
たとえば、女性ならば、
子育てをしていた時代。
男性ならば、会社の社長。
まったく忙しくて大変だけど、
社会や家族に必要とされていて、
自分が一番輝いていたあの時代に…。
現実と折り合いがつけられなくなって
混乱し、衰えて、迷惑をかけている自分が
情けないと思って、
まわりからも軽蔑や叱責や無関心の態度を
とられてしまって。
昔に戻ってしまわざるを得ないほどの辛さって、
どんなだろう、と考えると身震いします。
「私はもう引退したから」と言われたご本人は、
(なんとなく、ここにいてもいいのかな)という
気持ちになってくださったのかな、と思いました。
「よくぞ、ご無事に戻って来られましたね!」と、
私は思わずご本人の手を両手で握りしめていました。
「なんだい、お前は~!」と言われてしまいました(笑)