そのときは、すぐにやってきました。
2回表。この回の先頭バッターは
私と同級生の野球小僧。この人も
「子どもには容赦ないタイプ」のようで、
右中間を深々と破る3ベースヒットを打ちました。
(さあ!次は俺の番だ!!)
現役さながらにバッターボックスに入る手前で
一礼したところ、
「セカンドとピッチャー交代」と、
相手監督が球審に告げました。
(え!!もう、か…)
マウンドに向かうのは、私の長男。
若干ヘラヘラしているのは、
緊張を隠すためでしょうか。
投球練習を始めましたが、始めの2球は
ホームベース手前でワンバウンドして、
キャッチャーの子から「緊張するなよ!!」
と声をかけられました。
「おい、せめて届かそうや」と苦笑する私。
長男もどんな顔をしていいのか分からず、
なんだかあいかわらずニヤニヤしています。
しかし、その後もコントロールが定まらず、
投球練習は終わってしまいました。
その姿をみているうちに、私の心の中に
(このまま、本気で打ちにいっても
いいんだろうか)という気持ちが
芽生えてきてしまいました。
からだも小さく非力な長男。
最上級生になってもレギュラーになれず、
(このまま補欠で終わるかもしれない)と
思ったこともありました。
一冬越して、なんとか、やっとのことで
レギュラーにならせてもらった長男。
試合に出させてもらうことで
プライドの柱をちょっとだけ太くしていった
長男。
(ここは成功体験をさせてやたほうが
いいんじゃないだろか)
ふたたび、バッターボックスを前に
一礼しながら思いました。
しかし、私の野球小僧の魂の炎は
けっして消えませんでした。
知らず知らずのうちに
自分の体が意思に反する行動を
とっていたのです。
ボックスに入り、足の位置を決めるとき
自然とピッチャー寄りにしていたのです。
野球経験者ならお分かりでしょう。
私は無意識のうちに
打球をより遠く飛ばすために
前めに構えたのでした。