車イスに座ったご本人を目の前にして
「やっと帰れて良かったです」と、
娘さんは言いました。
8月に脳梗塞を発症して2ヶ月ぶりの
自宅に戻られました。
「家で倒れたときはどうしようかと
思いました」。入院中も何度か、
娘さんからこの言葉を聞きました。
ほんと、びっくりされたんでしょう。
ところで、冒頭の
「やっと帰れて良かったです」に込められた
娘さんの気持ちはこうです。
「ひどい病院から退院できて良かった」。
いろんなことがあったようです。
状況を訊ねても「自分では分かりません」。
食事、リハビリ以外は寝たっきり。
おむつ交換を頼んでも「時間じゃないから」と。
物忘れがひどくなって、自分の顔も
思い出せないときがあったとき、
「1日も早く家に連れて帰りたい」と
思われたそうです。
中でも、いちばん傷ついたのは、
「本当に家で看られるんですか?」と
言われたこと。
認知症症状が進み、左半身の不全麻痺が
残って、たしかに入院前のご本人
とは違います。
そう言われて(やっぱり、無理かな)
とも思われたことも。
「(それでも、施設に入れるのは
申し訳ないなあ)と思っていたけど、
こうして家に戻ることができて、
本当に良かったです」と、娘さんは
言いました。
専門家と言われる人から
言われる言葉は本当に重い。
昔、こんなことがあったのを
思い出しました。
頸部骨折したおばあさんを見て、
「これは寝たきりになるな」と医師資格を
持つ孫に言われて、娘さんは目の前が
真っ暗になったそうです。
しかし、その方、無事に回復されました。
専門家って、その道の勉強をして、
たくさんの経験を積んでいるから、
その人の将来が見えるんでしょう。
でも、その予測がはずれることも
けっこうあるんですよね。
将来起こりうるリスクを話すのは、
しかるべき人がすれば良いだけの話です。
ましてや、(家に連れて帰りたい)と
思っている人にむかって、「そりゃあ、
無理だよ」って言わんばかりの無神経さ。
専門家の言葉って重いんですから。