何とかレジをすませるところまでは
来られた、おじいさんとおばあさん。
しかし、来た道を帰らなければ
家に着けません。
しかし、おばあさんには、おじいさんを
おぶって帰ることなど、とてもできるわけが
ありません。
途方に暮れている2人の姿を見て、
声をかけてくれる2人組がいました。
おばあさんが事情を話すと
その人たちは両腕を抱えるようにして、
スーパーの玄関のところまで
連れていってくれました。
買い物の台車にしがみつき、
両脇を抱えられているおじいさんの
後ろをついていったおばあさんは
その姿を見て思わず、
笑ってしまったそうです。
「でも、あの人らがおらんかったら、
どうしとったでしょうな」とおばあさん。
ベンチにへたり込んで、2人で
「もう来られんな」と言いあいました。
そして、しばらく休憩したあと、
タクシーを頼んで帰ったそうです。
そんな話を聞いてから、
1年くらい経ったでしょうか。
おばあさんはおじいさんを置いて
心筋梗塞で亡くなりました。
朝、起きてみたら…と
いうことだったらしく、
「最後の言葉も聞けずに」と、
息子さんは悔やんでいました。
それから1年。この日、
おじいさんが亡くなりました。
おばあさんが亡くなったことを
いつもいつも、言っていました。
「『おれを置いては死なれん』て言っとったに」
が口ぐせになっていました。
70年近く連れ添って、1年間だけ離ればなれに
なってしまったけど、今ごろ、あの世で
再会していらっしゃるでしょうか。
いえ、あの世とこの世で離ればなれに
なっているように思っても、ふれあえることは
できなくても、おばあさんはずっとおじいさんの
そばにいてくれたような気がします。
入院中に何度か、「おばあさんが出てきた」
という、夢の話を息子さんにしてたそうですから。
そして、おじいさんはおばあさんと再会して、
1年分の話をしているんでしょうね。
あのとき、2人で冒険をした話も。
「おばあさん、また、行ってみたいなあ」
「おじいさん、私はこりごりだけえ^^」