「まだまだ足らんよ」。
先週、親せきの法事に行ってきました。
その家のおばあさんが亡くなって
1年が経ちました。
その家には息子さんが1人。
亡くなったおばあさんの連れ合いは
特別養護老人ホームに入所しています。
おばあさんが亡くなったときに
世話をしてくれる人がいなくて、
ホームに入所する事になりました。
そのことで、私も何度か相談を受けました。
とても依頼心の強いおじいさんだったようです。
おばあさんも自分の体調のことなんか後回しにして、
おじいさんの世話を生活の最優先にしていました。
本当に仲の良い夫婦だった、と
聞いていました。
しかし、おばあさんは介護の疲れからか、
突然死、という形でこの世を去りました。
ほんとうに「命を削って…」という言葉が
ふさわしいくらい、命をかけて介護したことになります。
残されたおじいさんはホームへ、
今は息子さんだけ家にいます。
息子さんは、漁に出るかたわら、
時化(しけ)で船が出せないときは
必ずおじいさんのところに出かけるそうです。
おじいさんが寂しがるからです。
車で30分かかるホームまで…。
おじいさんに会うと、海の様子や
前日の釣果など、逐一報告します。
おじいさんはその話を聞いて、
自分も昔、漁師だったことを思い出している表情で、
「故郷の海に思いをはせているようだ」
と、息子さんは言いました。
母親孝行をしてやらなかったから
その分、親父の世話を思う存分してやりたい、
そんな決意を語ってくれました。
「叔父さん、毎日、本当にすごいですね。
そんなに行く人いないでしょ」と私が言った、
それに対する返事が「まだまだ足らんよ」でした。
その言葉を聞いて、とっさに私は叔父さんの中に
おばあさんの魂が宿っているんじゃないか、
と思ってしまいました。
休みなく、漁とホームへの訪問を続けている
叔父さんの姿が、一生懸命介護に没頭する
おばあさんの姿とだぶって見えました。