(前回は>>>こちら。)


長男さんがお母さんの様子を

今ひとつ把握していなければ、

このままほおっておくと、おそらく

後悔することでしょう。


そうではなく、あえて避けようと

しているのなら、その辛さを

共有することも必要かも。


ただ、このまま見守られることなく、

この世を去っていかざるを得ない

お母さんの思いは、どうなんだろう。




私は長男さんのいる家に行きました。

長男さんは部屋でひとりでTVを

見ていました。


私は台所に案内され、そこで

長男さんと2人きりで話しました。


「さっき、病院に行ってたんですけど、

お母さん、だいぶ悪いみたいですね」


「そうですな。もう歳だし…。」


「看護師さんから聞きましたけど、

あんまり良くないって、言っておられましたね。」


「そうみたいですな。」




長男さんはどう思っているのか、

まったく分かりませんでした。

亡くなることにピンと来ていないのか、

分かっているけど、そばにつくことが

辛いのか。


ただ、ひとりで部屋にいるということは、

忙しくしているわけではない、ということは

分かりました。




「親せきや知り合いの方は、お母さんのこと、

知っておられるんですか?」


「いちおう、そのことは言ってあります。

無理せず、飲めるだけ、食べれるだけ、

ということで、みんなが納得しています。」




「お母さん、夜になると寂しくて、

看護師さんを呼ばれるそうですよ。」


「そうですか。病院嫌いでしたからなあ。」


私の言葉に相づちは打つものの、

私の言いたいことは、どうも伝わって

ない気がします。




私は、話題を変えて、自分の父親が

亡くなったときに、亡くなるまで

実感できなかった体験を話しました。


その時がきたときに後悔しないように、

という思いで話しました。


でも、回りくどい話のため、自分自身で

何を言っているのか分からなくなり、

うつむいてしまいました。




長男さんはタバコに火をつけました。


無理に面会を強要することもできないし、

落としどころのない話がしばらく続きました。




母親と息子の最期になるかもしれない時間を

少しでも共有してほしいと思いましたが、

それは私の勝手な考えで、親子の関係は

他人には分からないものがあるのだと、

納得するように自分に言い聞かせて、

長男さんの家をあとにしました。




それにしても、うまく伝えられない自分。




仕事が終わったその夜、帰る道すがら、

病院へ行きました。

Aさんの様子が気になって、そのまま

帰る気がしなかったのです。


病室への階段を上がる途中、夜勤の看護師さんに

出会いました。そして私に言ってくれました。


「息子さんが来てますよ。」


耳をすますと、Aさんの病室から

何人かの人の声が聞こえています。




私は、病室へ顔を出そうとしましたが、

思い止まり、引き返しました。


Aさんにとって、みなさんとの時間を長く

過ごすほうがAさんにとって

嬉しいことだろうと思ったからです。




(おわり)




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