それは、寒気が緩んでから1週間ぐらいしたある日の話。

最初の報告は、朝、デイサービスの職員さんからでした。


「週末、Oさんが自宅で倒れて、そのまま入院した」。


Oさんは妻との二人暮らし。

聞くと、低血糖症状で意識を失った、ということでした。


私は当初予定していた仕事を急いで整理して、

車で30分かかる病院へ行きました。


(糖尿病はあったけど、低血糖になったことはなかったのになあ。恐いなあ。)

と思いながら、車を走らせながら考えていました。


病院に着くと、ベッドに横になって、

点滴をしているOさんの姿が。


ベッドの頭を少しだけ上げて、部屋の入り口に目をやっていた

Oさんはすぐに私に気づいて、

点滴を刺していない方の手で私を手招きしました。


「もう少しで死ぬところだったわ」と、

Oさんは笑いました。

「ほら、手も元通りの色に戻って」。


Oさんは誇らしそうに、右手をグー、パーと

くり返して見せてくださいました。


よく見ると、爪のまわりは内出血らしき後が

残っています。それも5本の指、全部が。


話を聞くと、どうやら凍傷になりかけていたというのです。


Oさんは、少し天気が良くなったので、昼食を食べた後、

庭を散策しようと雪の残る庭を歩いていたそうです。

ところが、戻ろうとして体を反転しようとしたその時。


バランスを崩して、雪の中に倒れたそうです。


Oさんは杖も使わずに歩きますが、

脳梗塞の後遺症で左半身は麻痺しています。


雪の中に倒れて再び立ち上がることができなかったのです。


妻は友人と温泉に行っていて、夕方にならないと戻ってきません。


(家の玄関まで、這って移動しよう)、そう思ったOさんでしたが、

雪のぬかるみで、自由に使えるはずの右手が思うようになりませんでした。


もがいてももがいても、前に進みません。

倒れたところから玄関まで、たった5メートルほどなのに。


どれくらいの時間をかけて玄関にたどり着いたか、

忘れたそうですが、奥さんが帰ってきて

救急車を呼んだ時は午後6時を過ぎていたそうです。


玄関で倒れていたOさんに、奥さんが声をかけても

ほとんど意識が無い状態だったそうです。


「もうちょっと奥さんが遅かったら、大変なことになったでしょうね」と言う私に、

「ほんに、助けてもらったわ。家内には頭が上がらんわ」と

笑うOさんでしたが、私にとっては笑えない話でした。



恐かったあ。

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