「ずっと施設に入れるのは、ご本人もおばあさんも気が引けるかもしれません。」
「おばあさんも無理できない体ですし、今までみたいに“ずっと家で看る”というわけにもいかないでしょうから、何日か泊まって、何日か家に戻って、という感じでやってみられたらどうですか?」
次男はうんうん、と聞いていた。
「じいさんも知らんところに行くのは大変だろうけ、なあ。まあ、ちょっと相談してみますわ。」
次の日、吾朗さんの家から電話がかかってきた。
電話の主は、妻だった。
「あれから考えてみたですけど、やっぱり施設に入れるのはかわいそうな気がしましてなあ。もうちょっと家で頑張ってみたいなあ、と思って電話したですに。」
(やっぱり、揺れ動いているんだなあ。“自分が頑張れば…”という気持ちなんだろうな)
「息子さんとは相談しました?」
「いいや、それが、まだでしてな。」
「病院で話したときは、家に連れて帰ることも考えておられたみたいですから、相談されたら良いと思いますよ。」
そう言って、電話を切った。
しばらくして、再び電話が鳴った。やはり妻からだった。
「ちょっと息子と相談してみたですけど、“そんな体で介護できないだろ”って、言うもんですけ、やっぱり施設を頼みます。」
(あれ?やっぱりダメなのかな。)
「そうですか、分かりました。じゃあ、施設の方向で話を進めていきますね。」
「お願いします。」
その日の夕方、吾朗さんの家へ電話をした。息子に気持ちを聞いてみた。
「そうですな、家で看てやりたい気持ちもあるけど、帰ってもまた根を上げるでしょうから。」
「う~ん、そうですね。でも、休みながら介護することも出来ますよ。この前言ったやり方とか。」
「そうか。じゃあ、ちょっとそれで考えてもらおうか。」
妻もそうだが、息子も迷っている。実は息子も“家で看てやりたい”と考えているのかもしれない、と思った。
家で看てやりたい、と思っているが、そうできない理由があるのかもしれない。
(あ、もしかしたら…。)
その理由に心あたりがあった。