村田さん(仮名)が退院した次の日、心配になって自宅を訪問した。
すでにヘルパーさんが自宅で村田さんと話をしていた。
村田さんはベッドに腰掛けて座っており、その横にヘルパーさんが正座していた。
「体温を測らせてくださいね」「今日の薬、飲んでくださいね」などとヘルパーさんが話すのを、村田さんは意外にも従っていた。
もっと拒否されるだろうと思っていたのだが。
「訪問したときは布団にくるまっておられたんですよ。でも、“よう来たな”と言ってくれて。」ヘルパーさんは少し嬉しそうに話してくれた。
「家は良いでしょう、ゆっくりできて」と話しかけると、「そうですなあ、病院におるよりくつろぎますわ」と答えた。
入院していたことは覚えておられるみたいだな。
しかし、気がかりなことがあった。
ベッドの横に、スーパーで買ったと思われる寿司がフタは開けてあるが、そのままになっているからだ。
「これはどうしたんですか?」
「ああ、多分弟が買ってくれたもんでしょうぜ」と言った。
なんとなく話し方も、おっとり、ゆっくりしている。
村田さん、若い頃に東南アジアに出征していたが、戦場カメラマンではなかったはずだ。
というより、入院中の覇気が感じられない。
部屋の隅にはフタの開けていないお茶のペットボトルも置いてあった。
寿司のことが気になって、弟さんの家にも顔を出した。
「確かに、昨日は寿司を買ってきただ。いなり寿司と太巻きの。」と弟のお嫁さんは言った。ペットボトルもお嫁さんが買った物だった。
もしかして、飲まず食わず、か。
「それより、聞いてくださいな。昨日の夜遅くに“誰が病院から追い出した!”って、杖を2本ついて、やって来たがな。あれだけ退院したがっとったくせに…」と、お嫁さんは言った。
う~ん、自宅じゃ無理かな。
次の日、デイサービスで発熱。口数が少なく、やっぱりぼんやり。
病院を受診したら「脱水」とのことで、点滴を受けた。
「もしもし、もしかしたら、無理かも?」
私は、もしもの時でも協力してもらえるように、地域包括支援センターへ報告した。
(つづく。)