階段から下りていくと、ちょうどそこに母親が立っていました。
夜も更けていたので、薄暗い中で私にポツリと投げかけました。
「認知症の病気に効く薬はないだろうか?…」
「アリセプトぐらいかな?」
何げなく言葉を返したあと、さわ~~っと、背筋が寒くなりました。
(え!?まさか?かあさん…?)
「今さっきな、友達から電話があって。ご主人が1週間前からおかしいだって。」
幸いなことに、アリセプトが必要なのは友達のご主人でした。
あ、“幸いなことに…”なんて、言っちゃいけませんね。
母の友人のご主人は、頑固で人づきあいが悪く閉じこもり。
寝たきりになることを心配されていたんですが、1週間前にTVを地デジにしたら、何とリモコンの使い方が分からなくなり…。
「まあ、病院に行ってみてもらったほうがいいと思うよ。」と、認知症のことをしっかり診てくれるお医者さんがあそこと、ここと…、みたいな感じで紹介しておきました。
ちょっと気になったのが、奥さんがご主人のことを誰にも知られたくない、ということ。
「「誰にも言ってないけど、ちょっと相談…」って、電話があっただが。「まだ、隣の親戚とあんただけにしか言ってないだけ」だって。」と、母親は教えてくれました。
認知症になることは、家族にとっては本当に恐ろしいことなんだな、と思いました。治らない病、という理解が広がっていますから、そのことに対する受容はなかなかできないんでしょうね。否認、焦燥、不安。これから自分の身に降りかかる介護のことを想像すると、そう簡単に現実を受け止めることは難しいのでしょう。
認知症のことに理解している(つもりの)私でも、母の最初のひと言で「自分の母親が認知症になった?」と勘違いして、焦りましたから。あまり知識を持っていないご家族の気持ちは、察するにあまりありますね。
認知症の理解、受容。
難しいテーマです。