(第1回はこちら。>>>どっちがいいんだ? )
(第2回はこちら。>>>娘たちが付け届ける理由 )
(第3回はこちら。>>>私のささやかな抵抗? )
(第4回はこちら。>>>空きができたのに… )
私は迷いました。迷ってしまいました。
でも、結局私は…。
「美香さん、もうよく頑張ったんじゃないか?」と声をかけました。
ご主人はどう思っているの?と聞くと、「多分ホッとしていると思う」って言うし。
「美香さんが「家で看たい」って頑張って看られなくなるときが心配だし、ご主人も仕事があることでしょ、子供さんの世話もあるし。娘さんとかも、この前「美香さんには本当に感謝している」って言ってたよ。」
美香さんはうつむいて動きませんでした。
しばらく時間が過ぎました。
私は再び口を開きました。
「そうだ、こういう手がある。今は夜起きて介護が大変だけど、もっと弱って寝たきりになったら、家で看れるんじゃないか?」と言いました。
最期を施設で看取るんじゃなく、家に連れて帰って、家で死ぬ。寝たきりになることを期待することは本意じゃないが、でも、もしそうなったら別に老人ホームで最期を迎えなくてもいいじゃないか!
美香さんは顔を上げました。
「そうしたら、先生に診てもらえるかな?」
「うん、大丈夫だと思うよ。」
「ありがとう^^」
美香さんは、少しだけすっきりした顔で帰って行きました。
老人ホームに入るその日、私は児玉さん(仮名)の家へ訪問しました。児玉さんは外出用の服に着替えて、ベッドの横にちょこり、と座っていました。児玉さんのまわりを囲むように娘さん達が、そして、私が来たのを知った孫嫁さんが台所から出てきました。
「ああ、田中さんか。お世話になりましたなあ。また戻ってきますけ。」児玉さんはショートステイのことを言っているのか、最期に家に戻ることを言っているのか、分かりません。
「また、会いに行きますから、元気でおってくださいよ。」
「まあ、忙しいけ、来んでもええでな。」
「分かっとるなあ。今日はしっかりしとるわあ。」
孫嫁さんの言葉に、笑顔の娘さん達でした。
(おしまい。)