彼の妻は電話越しに「内緒の話にしといてよ…」と言った。
(なんだろう…ウキウキ^^)
私も小声になって「はい、はい、分かりました。分かりましたから。」と返事をした。
「何だろう、内緒の話って…」。思い当たる節がない。
でも、そう言われると、「なにごとか?」とワクワクしてしまう。
その日がやってきた。
約束の午後3時。妻は、わざわざ事務所にやってきた。
私は相談室に案内した。外から見えないように、入るなりカーテンを閉めた。
誰の目も届かないところで2人っきりになると、すかさず妻は「ここだけの話にしてよ…」と前置きして、話し始めた…。
相談に来た妻は78歳。現在も現役で農業をしている。
そして妻の夫は要介護3。4ヶ月前に2回目の脳梗塞を起こした。夫は脳血管認知症の病名がついている。
「いろいろと世話になったんだけど…」。小声な上に、うつむき加減で話す妻の言葉が聞き取れない私は、身を乗り出して次の言葉に耳を傾けた。
「おじいさん、退院してからこっち、ボーッとして元気もないでしょ。デイサービスでは話し相手もいないし、このままだと認知症が進むんじゃないかと心配なのよ。」と、言葉を選びながら妻は言った。
正確に言うと、夫が通っているところはデイサービスではなく、リハビリができるデイケアだった。左麻痺があるために、かかりつけ医が運営するデイケアで歩行訓練をしていた。
続けて「近所に新しくデイサービスができたんだけど、そこには近所の人がたくさん来るらしいから、そっちに替われるだろうか?」と、少し申し訳なさそうに言った。
そのデイサービスの存在は私も知っていた。そして、デイケアでは黙っていて何もしていない時間が多いことも。デイケアのPT(理学療法士)さんからも、「今後、リハビリで大幅な改善は見込めない」と聞いたばかりだった。
そういう状況を考えると、こちらのほうから「向こうのデイサービスに替えてみませんか?」と先手を打ってみることも必要だったかもしれない。
「そうですね、気がつきませんでした。デイサービスが空いていたら、そちらも利用できると思います。」
「それと…、ケアマネジャーさんはどうしようかな…」。妻は続けて言った。
私は軽くショックを受けた。
そのデイサービスにはケアマネジャーの事業所が併設している。
妻はそちらのデイサービスに、ケアマネも含めて、すべてお願いしようか、ということなのだ。
正直なところ、ケアマネジャーを代えたい、と言われたのは仕事を始めた頃に1、2度あったが、それからは何年もなかったことだ。
もしかしたら、そこのデイサービスを紹介しなかったことが、妻には不満だったのかもしれない。
あ~あ、失敗したなあ。
私が至らなかったんです。
妻との話を終えて、上司に報告した。
上司はしばらく考えてから、思いもよらない返答をした。
(続く。)
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