昼過ぎのことです。
事務所に一本の電話が鳴り響きました。
「田中さん、ちょっと来てえや。」
声の主は小杉さん(仮名)のお嫁さん。
「おじいさんが言うこと、聞かんだけ。
今日だったら、いつでもええけ、とにかく来てみて。」
電話の声を聞いているだけで慌てている様子が分かりました。
小杉さんのお嫁さんが何を急いでおられるのか、というと、
足の弱ったおじいさんが心配だから来て欲しい、と。
詳しく言うと、
おじいさんが使っているソファーのようなひじ掛けイスが回転するので、
立ち上がるときにふらついてバランスを崩すそうです。
それで、良かれと思って食堂にあるイスを用意しようとしたら、
おじいさんは「今のイスでいい。」と一蹴。
「家の者の言うことは聞いてくれないから」と、
泣く泣く電話をかけてきたのでした。
廊下に手すりもつけたいというので、
急遽、福祉用具業者さんと一緒になって訪問することにしました。
「業者さんと行きますから、夕方頃まで待ってくださいよ。」と、
ちょっとだけ釘を刺して。
車で家の近くまで行くと、お嫁さんは玄関の前で“待ち疲れた~っ”
という顔で迎えてくれました。
「よく考えたら、食堂のイスはひじ掛けがないけな、
ふらっとしたら危ないが。
ちょうどな昔使ってたイスがあったけ、
それを業者さんが持ってきたことにして…」。
お嫁さんの中で、すっかりストーリーが出来上がっていました。
ドウシヨ?(^_^;)顔を見合わせて苦笑する私と業者さん。(^^ゞヤレヤレ
「家のもんが言っても、聞かんだけ。長年生きてきただらあ。
あんたら専門家の言うことだったら、おじいさんもな、
“そうか、しかたないな”って思うけ。
ほんとに歳取るといけんわ。」。
95を過ぎた小杉さんのお嫁さんといったら、歳も70オーバー。
“そっちも相当なもんでしょう”と口から出かかったけど、
やっとのことで飲み込みましたA=´、`=)ゞフウー
お嫁さんのシナリオをひととおり聞かされた私たち2人は、
おそるおそる小杉さんの部屋へ入っていきます。
小杉さんの部屋は細い廊下の突き当たり。
細い廊下づたいに荷物が置かれていて、
すれ違うことができないほどの幅です。
小杉さんの部屋にむかって3人で縦になって進んでいくさまは、
さながらジャングルの奥地を進む川口浩探検隊が如く…。
(続く 。)
探検隊へ応援ポチを!