「田中さん、忙しいところ悪いんだけど…」
私がデイサービスに顔を出したとき、
後ろから大黒さん(仮名)が声をかけてきました。
「なんですか?大黒さん。どうしたんですか?」
大黒さんは眉間にしわを寄せて、申し訳なさそうに私の顔を見ました。
「なに、なにい、遠慮しなくていいんですよ、何ですか?」
「実はね、ショートステイを頼みたいの。」
な~んだ、そんなことか。
でも、大黒さんがショートステイするの、初めてだなあ。
「娘が連休中に友達と旅行に行くから、「おばあさんはショートステイに
泊まって」って、言われたの。」
大黒さんは要支援2。膝が悪いけど、日常生活は自立している。
最近は同居を始めた娘さんが家事をしているが、
大黒さんだって、家のことができないことはない。
う~ん。ちょっと聞いてみようか。
「大黒さんはショートステイに行きたい?」
「私は、家におっても大丈夫だと思うけど、娘に心配かけるかもしれんし。」
そうだよな、たった1泊のことだし、ショートステイまでは…。
「分かった。でもGWだし、部屋が空いとるかどうか聞いてみるわ。」
大黒さんの家に一番近い老人ホームへ電話をしてみた。
「GWですか。すみません、空いていません。」
「あっ、そうですか。いいです、いいです、ありがとうございます。」
よしっ、大義名分ができた。
急いで私は、大黒さんのところに向かった。
「大黒さん、ショートステイの部屋はやっぱり空いてないって。どうしよう…」
「そう?どうしようかな…。」
「もし、自分でできそうだったら、別にショートステイを頼まんでもいいだよ。」
「…」しばらく考え込む大黒さん。
もしかして、遠慮してるのかな。
娘さんに心配かけさせまいと、安心して旅行してもらおうと
大黒さんは考えているのかもしれないな。
「大黒さん、もし良かったら僕のほうから娘さんに部屋のことを言っておこうか?」
私は娘さんのところへ電話をした。
部屋が空いていないことと、家で十分生活できるのではないか、
と言ってみた。すると、娘さんは意外にも、
「そうですよね、私もそう思うんですが、お母さんがそう言うもんで。」
えっ、どっちの言うことが本当だろう…。
どっちもショートステイには消極的だったってことか。
「大黒さん、娘さんこう言ってましたよ。」と伝えると、大黒さんは
「そうか、そうか。良かった、ありがとう。」と笑顔になりました。
…未だに分からないんです、
大黒さんはショートステイに行きたかったのか、そうじゃなかったのか。
娘さんはショートステイに行かせたかったのか、そうじゃなかったのか。
結局GWは何事もなく…