とある病院に、ご本人の聞き取り調査に行ったときのことです。
介護保険の認定調査のことですね。
聞き取りしたのは90歳近い女性。こけて骨折してしまった方です。
骨折したところは完治しましたが、車イスに座っていらっしゃいました。
認知症もなく、しっかりと自分の意思が伝えられる人でした。
看護師さんと2人で私が来るのを待っておられましたが、本人は浮かぬ顔。
どうしたのか、と尋ねたところ、家に帰れるかどうか分からないんだとか。
私が訪問する前にドクターと家族とが本人を交えて
退院後の話し合いをしたそうなんです。
ドクター曰く、「骨がもろくなっているので歩行は禁止。
車イスで移動しなさい。」とのこと。
そして同居している嫁曰く、「自分には仕事があるし、
介護していけるのだろうか」という不安。
この家、お嫁さんと2人暮らしなんですね。
私の印象では、おばあさんは十分家でも生活できそうに見受けられます。
家庭にはいろんな事情があるので、どうのこうの言えませんが、
こういう人を家で介護できない、と言って施設に入所させてしまう
罪悪感みたいなのが薄れていってるのかなあ、って思いました。
まあ別に、罪悪感を持て、とは思わないんですが。
これは介護保険が始まってからの傾向なのかなあ、と思います。
ある意味、介護保険が浸透しています。
でも、そのことで本人の生きたい暮らし方とは、
かけ離れたことになってしまっていますよね。
良いことなのか、悪いことなのか。
制度が浸透すればするほど、
そして、充実すればするほど、
こういうことが増えていくようですね。
実際そうなんです。デイサービスがたくさんある街には
街を歩いている年寄りの姿を見ない、とか。
少し弱った人は、みんなデイサービスに行ってしまっているんです。
ごく一面的に見て、豊かな高齢者社会を目指すために作られた介護保険が、
実際のところは本人の意思そっちのけで社会から切り離されているように思います。
この事例だけを見ると、とても豊かな老後は送れそうにもありませんね。
でも、制度があるおかげで救われる人があるのも事実なんですね。
要は、運用の問題、か。
ムズカシイモンダイデスネ