(前回はこちら。→優越感



加藤浩一(仮名)との連絡が途切れてから、1年が経とうとしていた。

再び連絡があったのは、つい1週間前のことだ。

知らないアドレスからのメールで、始めは間違いだと思った。

しかしそれは、たしかに私に宛てた加藤からのメールだった。



私は嬉しくなって、すぐに加藤へ電話した。

「ご無沙汰してます^^」。電話の向こうから、昔とちっとも変わらない、

人なつっこい加藤の声が聞こえてきた。





「すごいな、加藤。自分たちでデイサービス始めるか?」


「そうなんすよ。また遊びに来てください^^


加藤たちが始めるというデイサービスは、私の勤務地から車で約30分。
住宅街のなかにあるらしい。



「建物なんかはどうしたの?資金とか大変だったでしょう。」


「大丈夫でしたよ。先生の空き家を借りて、だから。」



聞くと、その地域で活躍している開業医の元で働いている友人がおり、

その友人と一緒にデイサービスを立ち上げることになったそうだ。




私は加藤が最初に転職をしたときのことを思い出しながら話をしていた。




私は、加藤に
今度こそ地に足をつけてやっていけよ、
と言っておこうと思った。



しかし、言わなかった。

これから自分たちのデイサービスに希望を抱いている

加藤に水を差すのは…。



「そうか、連絡してくれてありがとう。また行かしてもらうわな。」



お互いの近況をしばらく話した後、今度会う約束をして電話を切った。






成長するためには殻を破らないといけない。



私は特養で働いていたときに「そんなこと言ってるから浮くんだよ」と、
心ない言葉をかけた苦い思い出や、
加藤が転職したときにかけてやるべき助言をしなかったことが頭をよぎった。


私は、加藤のために自分の経験や考えをうまく伝えられるだろうか。

それとも伝えるべきだろうか。



地に足をつけて、骨を埋める覚悟でやり続けることが加藤の成長だとしたら、

自分の気持ちをうまく伝えられることが私の成長かもしれない。



よし、近いうちに加藤の所へ遊びに行ってみよう。



(おわり)





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(加藤に会ってきた話)