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次の日の朝。
今日は訪問看護さんの初日だし、一緒に訪問しようと思っていた。
朝礼をしていたときだった。
「杉山さん(仮名)の家から連絡があって、
“おかしい”という電話だったので、行ってみますね。」と、
訪問看護さんから連絡があった。
えっ、そうなの?
杉山さんが危ないって?
朝礼もそこそこに、私は車に乗って杉山さんのところに駆けつけた。
訪問看護師さんは、支度をするために
杉山さんの家を後にしていた。
「杉山さ~ん、おはようございま…。」
息子さんが、部屋から出てきた。「すみません…」。
「いえ、そんな。ちょっと上がってもいいですか。」
と言って、私は部屋に上がらせてもらった。
部屋に上がると、杉山さんは仰向けに目をつぶっていた。
顔の血の気はもう引いていた。
額に手を当てると、まだほのかにぬくもりが残っていた。
私は何も言えず、おばあさんの頭元に座って、ただ両手を合わせた。
「昨日の夜から苦しがって、“痛い、痛い”って言って、一晩中でした。」
「夜中だったし、連絡するのも悪いと思って、朝になって電話しただが。」
「でも、朝になって水分あげようとして、飲ませようとしたら
ゴクゴク飲んでくれて…。その後すぐに、おかしくなって…。」
「先生も昨日来てくれて、「もうそろそろかもしれん」って
言われとったけ、覚悟はしとりました。」
「でも、“家で死にたい”って、言っとりましたけ…。」
「家で死にたい」。でも、なかなか難しい。
正直なところ、「杉山さん、家で看れるのかな。」と思っていた私。
呑気な息子さんだと思っていたが、
一番おばあさんのことを考えていたのは、
やっぱり息子さんだったのかな、と。
「畳に寝かせてやりたいけ、ベッドは取りに来てもらってください。」
少しだけ唇が震えて、言葉を絞り出す息子さんを前に、
「気を落とさないでくださいね」とだけ言うのがやっとの私でした。
(おわり)