(前回はこちら 。)
「帰りた~い。帰らせて~な。」と、杉山さん(仮名)は言った。
持続点滴で脱水症状が落ち着いた杉山さんは、
入院していることに気づいて、家に帰りたがった。
病院の看護師さんから聞くと、
昨日の夜は一晩中「帰る、帰る」と訴えていたそうだ。
その日に病院から呼ばれて、私は息子さんと病院へ行って、
ドクターと話し合った。
「どうします?水分は足りてるけど、
食事はあいかわらず食べられない。
胃ろうする方法もあるけど、
おばあさんは手術なんかしないだろうし、なあ。」
そもそも杉山さんはは、食欲不振で水分も摂らなくなり、
そのために前の病院で入院していたのだ。
精密検査で原因を探そうとしていた矢先に、
急遽、退院していたのだ。
「先生、もうええですわ。このおばあさん、
言うこときかん。家で看ますけ。」と息子さんは言った。
「分かった。でも、同じことの繰り返しかもしれんで。」と、
ドクターは言った。
私は、とりあえずドクターが自宅を訪問して診療する
「訪問診療」と、看護師さんに頼んで「訪問看護」を計画した。
それと、介護がしやすいように「介護用ベッド」も借りて。
退院した次の日、自宅を訪問した。
あの時と同じように、杉山さんは
厚い布団の中に埋もれていた。
この間と同じ、横向きになって、足を折り曲げて寝ていた。
入院中もだったが、何も食べず、飲まず。
チョコレートが口のまわりに付いていた。
これじゃあ、たちまち脱水だ。
「いいもんがあるけ、持ってきてあげるわ。」。
私は、事務所に帰って、これを持って行った。
これだと、寝たままでもこぼさずに、
吸う力が弱くても、本体をギュッと押せば飲める。
「そんなもんがあったですか。」と息子さんは言った。
急いで、杉山さんの大好きなサイダーを200㎜㍑ほど入れて、
口元に持って行った。
口をもぐもぐさせるので、なかなかストローをくわえてくれなかったが、
何とか入れられた。……飲んでくれるか。
ゴクゴクッ、ゴクゴクッ。
「わあ、よお飲むわ。」と息子さんはびっくりしていた。
「今まで、コップで飲ませとって、起こさないけんし、困っとっただが。」
ものの30秒ほどで、ひと息もつかず、飲み干した。
「いやあ、いいもん、教えてくれて。」と息子さんは言った。
(いやあ、それほどでも…(・・。)ゞ)
「いいですか。1日1000㎜㍑は飲ませてあげて。
これを5本分だよ。」と話した。
あとは、食事か。
息子さんが作る、って言ってるけど、
ヘルパーさん頼まないけんかな。
あと風呂をどうするかな。
そうそう、前後しちゃったけど
サービス担当者会議も準備しなきゃな…
私は、急いで事務所に帰った。