1週間ぶりに自宅へ行った。
「行っといた方がいいかもな」と思ったからだ。
玄関に67歳になる息子さんが出てきた。困った表情だった。
「おばあさんが寝たきりで、動かせん。どうしたらいいだろうか。」
ということだった。
92歳になる杉山さん(仮名)。息子さんと2人暮らし。
入院しているのが嫌で、治療途中で退院された。
私はそのことを病院訪問をしたときに知った。
もちろん、息子さんからの連絡もなかった。
病院訪問から帰って家に電話すると、
息子さんが電話に出た。
「本人が“帰りたい”いうもんを、
引き留められんですわ。」と息子さんは言った。
最期まで自宅で看ます、と決意を口にした。
部屋に行ってみると、厚い布団と毛布にくるまって、
横向きに寝ている杉山さんの姿が。
ベッドの横には、入れ歯が湯飲みコップの中に入っている。
頭元にチョコレートと干からびたミカンが3房、皿に置いてある。
「ご飯は食べておられますか?」
「ほとんど食わんだが。」
「水分は?」
「飲ませようと思っても飲まん。
栄養剤も、はじめは飲むけど、
すぐに飽きて“もういらん”って、言うだが。」
風呂は入らず、タオルで拭くだけ。
おしっこも出ないから、おむつもほとんど交換しない。
「昨日からうわごとのようなことを言って。」
脱水だからだと思う。
声をかけると、ちゃんとした返事はないが、
答えることはできる。
近くのかかりつけのお医者さんに連絡して、そこへ行った。
「入院するか?」と話しかけるドクターに杉山さんは首を横に振った。
「まず、点滴をしよう。」。
別室で、点滴の用意がされた。
看護師さんが血管を探すが、なかなか浮いてこない。
「入院した病院でもそうだった。」と息子さんは言った。
「なかなか血管が分からずに、なんべんも針を刺しただけ。」
それを痛がって、入院が嫌だったみたいだ。
「困ったことになった。」と息子さんはつぶやいた。
結局その日は、そこに入院になった。
(続く 。)