「う、動けん…。」
“ぎっくり腰”、この地方では“きより腰”と呼ぶ症状を
再発させた私は、横たわったまま身動きすることが出来ず、
尿意と戦うことを強いられた。
「長期戦ではダメだ。一発勝負をかけないと。
亀田大●のようなアウトボクシングは
ここでは通用しない。痛みをこらえて起き上がるしか…」
あの忌まわしい電流の記憶は私の体の中に刻まれてははいたが、
下にしていた右脇腹から右ふくらはぎのジリジリとした痛みと、
あふれ出んばかりの尿意を克服するためには一か八か、
立ち上がる選択肢しか残っていないのである。
そして、立ち上がる手順を頭の中で反芻した。
「右手を布団の上について押し上げると同時に、右膝の向きを変え、
ひねるように力を加える。そのときには、ジリジリした右腰を跳ね上げて
一気に四つん這いの体勢になる…」
よし、完璧だ…。
自分を奮い立たせるためにも、カウントを始めた。
「5…、4…、3…。」
呼吸を整えた。「0!」で歯を食いしばり、力を込めるのだ。
「にい~…。」息を吐いた。
「いちい~…。」息を吸って…
止めて…。
「ゼロッ!」 ふんっ!
「はううううう…。てててていい~…」
…ダメだった。
全く力が入らない。
さっきの電流の痛みを体が覚えていて、
予定していた力の3分の1も出ていなかった。
しかし、腰にきた電流の強さは半分ぐらいですんだ。
…しかし、困った。
この痛みから逃れられるならこの世から去ってもよい、とさえ思った。
そうしてまた、しばらく考え込んだ。
ジリジリした右半身の痛みはジンジンに変わった。
せめて、この痛みだけは何とかならないものか…。
そうだ、仰向けになってみよう。
クリックしてくださると、
もう少し頑張れる気が…