若い頃の話です。
老人ホームのスタッフとして働いていた私。
同僚、というか、私より少し遅く入職された八田さん(仮名)は、中途採用の40過ぎの男性でした。
私の勤めていた老人ホームはほぼ流れ作業ですので、その流れを止めてしまう人は「厄介者」でした。
八田さんもその「厄介者」の1人でした。
同僚はもちろん、その階を仕切るフロアリーダーも八田さんを目の敵にしていました。
ある日のことです。
八田さんはクニ子さん(仮名)を食堂へ連れて行くのを忘れていました。
そのために他のスタッフがクニ子さんを連れてきました。
いつものように、
そのスタッフは「どうしたら、ちゃんとできるんですか!」
と居室から食堂へとつながる廊下で八田さんを怒鳴りつけました。
他のスタッフや利用者から見える所で。
そして、その事実を知ったフロアリーダーは、
八田さんに「ヒヤリハット」という名前の始末書を書かせました。
何度も何度も書かせました。
「こんな事で改善できるの!」って、言いながら。
17:30の業務時間が終わっても、居残りさせて。
こんなことが毎日続きました。
始めは、自分の仕事の負担がかかる、と思って皆と同じように八田さんのことを疎ましく思っていた私でしたが、家に帰れば妻も子どもさんもいる八田さんが、年端のいかない娘のようなスタッフ達に毎日のように怒鳴られている…。
私は八田さんがかわいそうになりました。
私は八田さんに話をしてみました。
「仕事、辛くないですか。」
「いやあ、仕事が出来ない僕が悪いのだから…。」
八田さんは悲しそうに、でも何かを悟ったような顔で私に返事を返してくれました。
八田さんはしばらくして、老人ホームを退職しました。
そんな職場が嫌で、数年して私も辞めました。