話を、マックのテラスに戻そう。

ねえ美智子さん、私工場に戻ろうかなあ

気弱になっていた私は、みんなが懐かしくなってつい、そう漏らした。

求人はまだかかってたし。

経験者は優遇されるらしかった。

すると、美智子さんから意外な答えが返って来た。

ダメだよ!アンタは英語やりな。

だってどうせ。

気づけば最近読んだ「運気をダウンさせる口癖3D」のうち2つを口にしていた。もう一個は「でも(Demo)」だった。


アンタ私になんて言って辞めたか覚えてる?
英語頑張って仕事にするって言ったんだよ。私応援してたのに。

これには心底驚いた。そんなに思ってくれてたなんて。

アンタさ、いつも親切だったじゃん。

ええ?

再び驚かされた。私何かしたっけ。かぼちゃを拾ったことしか覚えてなかった。

それに…アンタさ、送迎バス待ってる間、朝暗ーい中、一生懸命勉強しよったよね。いつもバスの中から見てたよ。だからアンタの夢、かなうといいなって思ってた。だから、後戻りなんか絶対ダメだよ。

あのけたたましい笑いは消え、美智子さんは切れ長の目で鋭く私を捉えた。

…わかりました。ありがとうございます。

それしか言葉が出てこなかった。3交代の工場勤務では、真っ暗な時間帯の移動が珍しくなかった。夜空を見上げながら、いつも中島美嘉のStarsを心で口ずさんでいた。

〝あんなに離れてる
小さなあの星が
輝いているのは
思いを信じているからでしょう〟

〝手に触れられないと
存在しないような
あきらめ方を
してしまうけど
遠い光消えやしない〟

寮では電気代が一律で徴収されており納得いかなかった。「私はエアコンあまり使わないです。料金下げられませんか」と交渉したら、「ではリモコン返して下さい。それなら電気代は割引きします」と言われ…冬は布団にくるまってテーブルで勉強していたがキツいし眠いし寒いしでいつも寝落ちしてしまうのが悩みだった。

〝窓の向こうには夜があるよ
輝くために
ずっと待っている
もういちど 灯り消せば
どこかに あの星〟

そのくだりが来ると、バスの中で泣いてしまうこともあった。