それをパッと掻き上げると、切れ長の目からなんとも言えない色香がこぼれた。その目には思慮深い光が宿り、形の良い薄い唇はキュッと結ばれていた。そこにだらしなさや下品さは微塵も感じられなかった。
そう、知性的なクールビューティーを誇る彼女の美貌は、いつものヒステリックな嬌声からは、かけ離れていたのだ。そこがまた、みんなを惹きつけてやまなかったのかもしれない。
ある日私は仕事の帰りがけ、スーパーの入り口で美智子さんを見かけた。買い物帰りらしく、派遣会社から貸し出されたママチャリのカゴいっぱいに食材が詰まっていた。
彼女は慎重に自転車を押していたが、後輪をブロックにひっかけバランスを崩した。慌てて片足を後ろにやり、ストッパーをかけようと焦っている様子だ。その瞬間。
あ。
カゴから緑色の丸いモノが転がり落ちた。ハンドルを取られないよう必死の美智子さんは気づいていない。
私はとっさに駆け出してそれを拾った。
かぼちゃ!?
思わず笑ってしまった。
美智子さんは首尾よく自転車を固定し、カゴの中身を整えていた。
…やっぱりなんか、ニガテ。
私は、
これ。
とだけ言ってかぼちゃを差し出した。
その反応は意外なものだった。
彼女は、
あ!
と叫んでカゴを確認すると、
あ、私の、私のカボチャ!
と叫んで両手でそれを受け取ると、大事そうに抱きしめた。
ありがとうね!
満面の笑みに驚いた私は、挨拶もそこそこにスーパーに向かった。
お疲れ様でーす。
背中ごしに言って足早に立ち去る私に、美智子さんの声が追っかけてきた。
あり、がと、ねーっ!
振り返るとクールで毒舌な美智子さんが全身でこちらに手を振っていた。
恥ずかしくて、私は黙ってコクリと頭を下げるとすぐさまスーパーの自動ドアを抜けた。