大好きな神社に朝、到着した。
大きな鳥居に頭を下げ、キレイに掃き清められた参道に足を踏み入れる。

あれ?

人嫌いの私のセンサーが反応した。

誰か来てる。

みると、80才くらいのシニア男性がこちらへ向かって階段を降りてくる。

いいや、もう帰るとこみたいだし。

傍によけてやり過ごそうとした時、男性は意外な行動に出た。

階段を降り切った瞬間にまた本殿目指して登り始めたのだ。

やめてー。

仕方ない。男性の後ろから私もその急な階段を登り始めた。

足を挫かないようにとゆっくりゆっくり登る私を尻目に、そのアクティブシニアはタッタタッタと軽やかに階段を登り切った。そして本殿に向かい手を合わせると頭を下げて何やら祈っている。

…長ない?

いつまでも男性が祈り続けているので私はしびれを切らした。

いるいる、こういう長々と祈る人。神様にはご挨拶といつもお守り頂いているお礼、世の中を良くするために頑張っている事の報告だけすれば十分なんじゃないの?アレコレお願いするのは間違ってるよ!

ちぇ。

罰当たりな私は神前で不平をもらし、横手に合祀されている天神様と保食神様に先にお参りした。

本殿に戻ると…

まだあ?

あろうことか私は自分の存在を知らせようと男性の後ろの参道を靴音高く歩き始めた。しかし、3Mのディスタンスになっても男性はこわばらせた背中をこちらに向けたまま祈り続けている。

しまった!

私はハッとした。この人は大事な方が病気だとか、そんな大変な中必死に祈願を重ねているのではないか。それでお百度参りのように階段を行き来していたのではなかったか?

ああ、なんてことを。何で私はこんなに狭量なんだろう。

すっかりしょげてしまい、私は階段近くまで引き返し、男性に気の済むまで祈ってもらう事にした。

待つ事さらに5分。ようやく男性がこちらを振り向いた。

かくしゃく、という言葉がピッタリの精悍な顔つきのおじいちゃんだった。後ろから竹刀で殴りかかったら、


パスィイ

と真剣白刃取りして投げ飛ばしてくる、あの感じの無骨さが滲んでいた。剣道の師範か何かだろうか。それにしても…この人の最愛の奥様が重い病で今度手術かもしれないと思うと胸が痛んだ。

そうだ!私はどうせ

おはようございまーす

で参拝が終わってしまうのだから、一緒に祈ってあげよう。たくさんの人が祈れば願いも届きやすいんじゃないか。

やあ、これは。お待たせして申し訳ない。

剣の達人(妄想)がハキハキと話しかけてきた。

いえ。急いでませんから。

思い切り反省を込めて私は頭を下げた。

さあ、どうぞ。

キレキレの動作で男性は参道を逸れ、片手で本殿の方へと私を誘導してくれた。

あの。

思い切って私は切り出した。

熱心にお祈りされてましたが、どなたかのご病気の快癒を?

あ、いやいや。違いますよ。

ああ、良かった。私も快癒をお祈りさせて頂こうかと。

あはは、これはご親切に!お気持ち有難いです。安心してください。そんな事では。

いかつい相合を崩したおじいちゃんは丸くなったEXILEアツシのように見えた。そしてその後、こんな爆弾発言をして半ば寝ぼけていた私を覚醒させた。

私が祈っていたのは…世界の平和です。

あんたガッチャマンかよ、いやウルトラマンかスパイダーマンか…

アタマの中がツッコミの嵐となり私は言葉を失った。

ええと何か言わなきゃ。

そっそれは!おかげで安心安全に過ごさせて頂いております。

顔を上げるとアツシは声をあげて高らかに笑っていた。三国志の小説で見た呵呵大笑とはこういう様をいうのだろう。

ハハハ、あなたは面白い方だ。

安堵した私はさっと神様にご挨拶を済ませた。階段を降りようとすると、軽々と駆け上がってきたアツシ翁と一緒になった。


毎朝ご参拝されているのですか?

いえ、週3回、小学生の登校時の当番で旗を持って立つ日に。帰りがけに皆の安全を祈願したくて。

こんなお願いなら、神様も喜んで聞いてくださるに違いない。