はあ。ゴミ出し前のプチごみ拾いもサマになってきたかな。ささっといつものエリアを周り、完了。さあ、今日はっと。

週一のカラオケの日。マッハで家事を片付けてバス停へとダッシュ。

おし、3分前。まだ通過して…ないよね。その時、バス停の前の車がヘンな動きをした。狭い直線道路なのにハンドルを切り、何かをよけてるような。

ふむ、面妖な。

その車が走り去ってコトの全容が明らかになった。道路際にあるゴミステーションが荒らされている。カラスなのか、ずさんに家庭ゴミを放置した「立ち去り犯」なのか…ホシが鳥だろうと人だろうとそれはどっちでもいい。それよりも今私は試されているのだ。


仮にもスポゴミプレーヤーを名乗っている身で、バスがもう直ぐ来るからと散らかりまくった現場の見過ごしは許されるのだろうか…イヤな予感。


バス停側へ道路を渡るとやはり、そこはかなりの散らかりよう。つつき出された中身は無惨に転がっている。

つつかれる袋の主はツメが甘いのだろう。詳細は控えるがその中身もかなり残念な感じで自らを顧みてしまった。

お。妙に冷静になってる場合じゃない。私は今試されているのだ。しかし。どう考えてもこの状況でゴミ拾いは無理がある。第一ギアがないし。ゴミばさみと手袋、いい感じのゴミ袋があってこそのスポゴミなんじゃないかなあ。ってコトで、今日だけは許してよ神様。


なぜかSeamoになりつつ、いいわけを見つけた私はホッとしてゴミステーションをスルーしかけた。とその時、本体のゴミ袋から小分け(?)レジ袋がごろりと転がり出て車道に突入した。


キキキ


驚いたドライバーがハンドルを切りつつ走り去る。



ハイハイ、わかりました。


ギアはないけど。仕方なくウエットティッシュを一枚ポケットにスタンバイして私はイキのいいゴミ袋を確保してステーションのネットに押し込んだ。


もお。


手ェ汚しついでだ。歩道に転がる大物を数個ネット下に投げ込み、小物は混入していたペットボトルではじいて寄せた。


あ。


緑色のバスが角から顔を出した。


うわー。


ウエットティッシュで指を1本1本拭きながらバス停に駆け出す。幸い赤信号でバスは足止めをくっていた。


ありがとうね。


なぜかバス停で待っていたおばあちゃんが私に深々と頭を下げた。


へ?


なぜこのおばあちゃんが?ああ、この方は街を良くしたいと願う素敵なかたで、だからゴミステーションの状態を憂えていたのだろう。


いえ、お気遣いありがとうございます。


私もね、何かしないとと思ってこの杖で少し寄せたんだけど。この通り足が悪くて。あなたが来てくださって本当に良かったわ。


えええ。大変な中ありがとうございます。


本当にありがとう。


なんだかエモーショナルなシーンになり私も言葉に詰まってしまった。


あの。おうちご近所なんですね。


はい。


そう言っておばあちゃんは可愛らしい花柄の杖でゴミステーションの後ろの家を指し示した。


あら。


良かったあ、スルーしなくて。おばあちゃんは門前が荒れてるのをずっとバス停から悲しい目で眺めていたのだろう。きっと神様がプレーヤーの登場に気付き、おばあちゃんの願いを叶えるべくプレーオフのボタンを押したに違いない。


ゴミを拾う。それは体だけじゃない、ココロのトレーニングにもなる深〜いアクションなのだと、車窓越しに街を眺めながらしみじみと感じた。


あ、降りなきゃ。


ガサガサとSUGOCAを取り出し慌ててバスを降りた。


ふと顔を上げると、さっきのおばあちゃんが手を振ってくれていた。


これは。


頭を下げると、あちらもコクリと頭を下げた。そしておばあちゃんはこちらへ頭を傾けたまま微笑みを浮かべている。


なんとも言えない温かいような懐かしいような不思議な気持ちになり、私はただ突っ立っておばあちゃんを見送っていた。


あのおばあちゃんが神様だったんじゃないかな。


ふとそう思いついたのはカラオケでひとしきり歌った後だった。