へえ。カッコイイね、フジジン。
だけど何でフジジンなん?

確か藤本直人、とか名前に人って字が入ってたんじゃないかな。

あーなるほど。藤と人、なんだ。そのフジジンのおかげで先生助かったんだね。けっこうヒドイ目にあってんだ。

今思うとひどいねえ!今も色黒いけどさすがにゴリラとか言われんもん。

何だかおかしくなってハハハと笑うと、カズサちゃんも笑い出した。

そりゃあヒドイわ。

だけどさ、藤本くんは勉強嫌いやったかもしれんけど、サッカー大好きだったんよ。スポーツニュースや雑誌を一生懸命みてたからブラジルについて知識があったんだね。そしてその知識で人を助ける事ができた。だからね、私は今も勉強してるけど、何のために勉強するのか?って立ち止まった時はあの日の事を思い出すんよ。知識って、それを使って人を助けたり、世の中の役に立つ事をしたり、みんなで楽しんだりするために身につけるものだって思ってるよ。

へえ。そっか。でも難しそう。

そうかなあ。さっきカズサちゃんは身につけた知識で私を助けてくれたじゃない?時代は変わったんだと、教えてくれたよ。

あ。

私嬉しかった。あの時、泣いたり怒ったりしたいのに、うまくしゃべれなくて。私の中で時間が止まってたことに気づいてなかったよ。

じゃあ、泣いてたのは小学生の先生?

そ。ブラジル帰りで真っ黒に日焼けした、可愛くない小学生。だから泣いたのは私じゃないんだからね!

何だか無性に遠藤さんに会いたくなってきた。あれから43年の月日が流れ…お元気なら110才くらいだ。京都大学の工学部をトップで卒業し、日本語、英語、中国語、ポルトガル語の4か国語を自在に操る出世頭だったという。

30代でブラジルに派遣され、飲食店に勤務していたシングルマザーの日系ブラジル人女性と出会い、結婚を決意したそうだ。しかしエリート外交官のお父さんが許さず勘当され、派遣期間が終わってもそのままブラジルに残って入籍したという。つまり、会社も辞めて文字通り全てを捨てて新しい人生を選び取ったのだ。

将来を約束された人材を惜しみ、会社は必死で引き止めたという。また、退職後は現地在住の日本の商社社員たちからひっきりなしにスカウトを受けていたそうだ。

結局、「自分は、愛するブラジルと家族のために時間を使いたい。そのかわり、命懸けでこの地に乗り込んでくる後輩たちとその家族の生活を守るために尽力したい、と元同僚に家族サポートの通訳を申し出たという。つまり、遠藤さんは父たちの大先輩だったのだ。

今、無性に遠藤さんに問うてみたい。

勉強するのは、何のためなんでしょうか。

               完