完全に立ち止まってしまったが、まくり上げていた長袖Tシャツの袖を引っ張り出してごしごしと涙を拭い、私はようやく走り出した。周りで歓声が起こった。

そうだよ、始まったばっかりだ!

野球帽を被った男性が手を振ってくれた。

頷いて手をふり返すと、ぶんぶんぶんぶん大きく振りかえしてくれた。

柵のすぐ向こうにいた毛糸の帽子のおばあちゃんは、急に猛ダッシュし始めた。柵越しに一緒に走ってくれている⁉︎パンジー介護シューズ?のようなリハビリ系の靴を履いている。


大丈夫か、おばあちゃん。

ランナー膝どころじゃないんじゃ?

心配になり、さすがに我に返っておばあちゃんを見ると、柵の切れ目で乗り出してこちらを向くと、小さく手を叩き出した。

がんばあれ、がんばあれ。

体全体でリズムをとりながら、おばあちゃんが大きな声で声援を送ってくれている。

おばあちゃん…

がんばります!

手を振って応えると、

そうそう!そうそう!

に声援が変わった。

カーブを過ぎると、前集団が見えてきた。やはり、走ると全然違う。

あっ、来た!

まだ一人追い上げて来る!

一斉にみんながこっちを向いた。

帰ろうとしていた親子が振り向く。

あれえ、なんであの人走ってるの?

お母さんがこらっ、と二つ結びの女の子の肩に手を置く。

お姉さんはね、あきらめない人なの。応援しなきゃ。

きょとんとした女の子が、手にした小さな旗をパタパタと振る。

ご自分のペースで!

女の子に優しい笑顔を向けた後、隣に立っていたお父さんが大きく手を振ってくれた。

自分のペースで。うん、あきらめない人にきっとなる。

ほどなく私は最後尾の集団に突入した。