スタートラインを越えた私は、ある作戦を立てた。それは、「体があったまるまで走らない」というものだ。脚の調子が悪いのに、スタート前に冷え切った状態で走り出したら第一関門のいとうずの森公園までも持たないだろうと思ったのだ。張り切って飛び出す周りにつられないようにしないと。

ガマン、ガマン。

ところが、最終ブロックの一番後ろの集団からも引き離され、誰が見ても明らかなビリっけつになってしまうとさすがに焦った。

斜め前に同じように遅れた男性がいた。70代くらいだろうか。

すごいチャレンジ精神だ!

初めから全く走っていない自分が情けなくなってきた。

あーあ。うつむいた時に声をかけられた。

大丈夫ですか?体調悪いですか?

見ると風船をつけて蛍光色のベストを着た女性が心配そうに覗き込んでいた。

いえ!あの。脚が冷えてるから用心で。

あのすぐ前の集団に合流できれば関門通過できます。私たち、ちょうど制限時間でゴールできるペースメーカーなんです。少し走れますか?

嬉しいけど自信がない。マラニックで測ったペースで考えるとまだギリギリ間に合う。

もう少しならしてから、追いつきます。

良かった。調子悪くなったらすぐ声をかけて下さいね。

いかにも大学の陸上部!みたいなランナー体型の女性は、笑顔を残して軽やかに走り去った。
とその時。前にいた男性が路肩に歩いて移動し始めた。腰を押さえている。

風船をつけた女性がそちらに走ると、反対側から自転車に乗った救護班が駆けつけた。大事な日だからと、痛みを押して参加したのだろう。きっとギリギリまで練習されてたんだろうな…



道は緩やかなカーブに入って、私は一人取り残された。

急に不安になったが、まだ、走り出す勇気がない。私の視界にはランナーは一人もいなくなった。

やっぱり無理だったか。

うええ。

今まで味わったことのない疎外感にヘタレはしゃくりあげはじめた。その時、次々と大きな声援が飛んできた。


まだまだ!

大丈夫だよー!

頑張ってえ。

いろんなところから、いろんな人の声がした。


顔を上げると、たくさんの人が乗り出して私に声をかけてくれていた。びっくりした。びっくりして、涙がポタポタと余計あふれた。


走らなくちゃ。走り出せ。走らなきゃ。

行け、ワタシ。