そんなんで良く足立山に登れたよな。
えー、でも行きに2時間半もかかって半泣きだったよー。
そんなに早く登れたのか!脚も出来てないしヨチヨチ歩きなのに?
言い方はいかがなものか、ではあるが一種のお褒めの言葉を頂き少し嬉しくなった。
そうだよー。
旦那さんの方へ自慢げな顔を向けると、みるみる眉毛がつり上がった。
誰と登ったんだ!男か?
そこ?
いや、一人。
一人で?初めての山登りでか?
そう。
思い出した。2年くらい前、突然思いたって足立山に登り、ふもとの妙見神社の上宮にお参りした事がある。交際中、山登りの話になり、旦那さんにそのことをちらっと言っていたような…。よく覚えてたね。
あの山は結構キツいぞ。よく一人で行けたな。
実は、正確には一人ではなかった。
あの当時私は妙見宮の近くに住んでいて、よく妙見さんにお参りをしていたのだが、突然上宮に行かなければ、と思い立ち、数日後に決行したのだった。
登山口からして深い森で、出発早々後悔したが、後戻りはできない。しっかりお参りするまではやめてはならないのだ、という覚悟だけはなぜかあった。
晴天の日曜日なのに全く人がおらず、「通り道」がどこかわからない山道に何度も立ちすくむ。傾斜はどんどん急になり、切り出した大きな岩を登るところが現れた。
えええ。ムリ。
数段しかないが高さがあり、おまけに山水が上を走っている。
滑ったら大けがだ。ちらりと、「この山は何度も遭難者を出してるから気をつけて。」と言ってくれた山登りの得意なおじいちゃんの声がよぎる。
私、無事に帰れるんだろうか。
昼なお暗い森の中、手のひらをすりむきながらなんとか岩を2段登った頃には汗びっしょりになっていた。
これでいよいよ戻れなくなった。
ああ怖かった
まだ震えが残る脚でのろのろと崖を登る。やっと平らな足場に辿り着く。
あれ?どっちだ。
全く違う方向に道が2本伸びている。
どうしよう。
普段から方向音痴の私は、考えた挙句いつも違う方向へ行ってしまう。迷子は慣れっこだったが、今それをやったら…またも登山家のおじいちゃんの言葉がよみがえってくる。
先週、登山口で下見をしていた時にたまたま下山して来たおじいちゃんが山の特徴や装備について教えてくれたのだった。
不安でへたり込みそうになる。
怖いよう
その時。標識がない方に紫色の花びらが5、6枚固めて置いてあるのに気づいた。
これってもしかして
見回すがそんな可憐な花はどこにもない。前を歩いている人もいない。
誰が、一体何のために⁉︎
そんなテロップが一瞬よぎるが、考えても、どちらが正解なのかわからない。もしかして、私より前に通過した人が、後ろの人のためと目印を置いてくれたのかも。山にはそういった習慣があるのかもしれない。
思い切って花びらの方へ進む。すると。行手の木の間をすごい勢いでかすめる人影がある。
こっちでいいんだ。
ザン!
と茂みを切るような音がして、黒い人影が斜めに駆け上がっていく。
そんなに大柄ではないが、敏捷で黒い着物に長めの黒髪をしている。易者?いや場所柄、修験者か。
お前にケガさせたら、大変だからな。
全く、女性を喜ばせるのは骨が折れるわ。
左右に飛びすさり、振り返りもせず、そんな憎まれ口を飛ばしてくる。なぜか私の事をお前、などと突き放してくれてるんだけどなんだか気を使ってくれてるようでもあり。あなたは誰だ?
どうやって運んでいるのか、通り道のあちこちにひとつかみずつ花びらがきれいなまま置かれていて、私は迷いなく明るく広い道に出た。
わあ、キレイ!
北九州の町が一望できる。
さっきの人は何者?写真撮影に夢中になるうち、すっかりその案内人のことは忘れ去っていた。
えー、でも行きに2時間半もかかって半泣きだったよー。
そんなに早く登れたのか!脚も出来てないしヨチヨチ歩きなのに?
言い方はいかがなものか、ではあるが一種のお褒めの言葉を頂き少し嬉しくなった。
そうだよー。
旦那さんの方へ自慢げな顔を向けると、みるみる眉毛がつり上がった。
誰と登ったんだ!男か?
そこ?
いや、一人。
一人で?初めての山登りでか?
そう。
思い出した。2年くらい前、突然思いたって足立山に登り、ふもとの妙見神社の上宮にお参りした事がある。交際中、山登りの話になり、旦那さんにそのことをちらっと言っていたような…。よく覚えてたね。
あの山は結構キツいぞ。よく一人で行けたな。
実は、正確には一人ではなかった。
あの当時私は妙見宮の近くに住んでいて、よく妙見さんにお参りをしていたのだが、突然上宮に行かなければ、と思い立ち、数日後に決行したのだった。
登山口からして深い森で、出発早々後悔したが、後戻りはできない。しっかりお参りするまではやめてはならないのだ、という覚悟だけはなぜかあった。
晴天の日曜日なのに全く人がおらず、「通り道」がどこかわからない山道に何度も立ちすくむ。傾斜はどんどん急になり、切り出した大きな岩を登るところが現れた。
えええ。ムリ。
数段しかないが高さがあり、おまけに山水が上を走っている。
滑ったら大けがだ。ちらりと、「この山は何度も遭難者を出してるから気をつけて。」と言ってくれた山登りの得意なおじいちゃんの声がよぎる。
私、無事に帰れるんだろうか。
昼なお暗い森の中、手のひらをすりむきながらなんとか岩を2段登った頃には汗びっしょりになっていた。
これでいよいよ戻れなくなった。
ああ怖かった
まだ震えが残る脚でのろのろと崖を登る。やっと平らな足場に辿り着く。
あれ?どっちだ。
全く違う方向に道が2本伸びている。
片方には行き先が書いてあり、片方は行き先板があったであろう棒だけが残っている。
どうしよう。
普段から方向音痴の私は、考えた挙句いつも違う方向へ行ってしまう。迷子は慣れっこだったが、今それをやったら…またも登山家のおじいちゃんの言葉がよみがえってくる。
先週、登山口で下見をしていた時にたまたま下山して来たおじいちゃんが山の特徴や装備について教えてくれたのだった。
不安でへたり込みそうになる。
怖いよう
その時。標識がない方に紫色の花びらが5、6枚固めて置いてあるのに気づいた。
これってもしかして
ヘンゼルとグレーテルみたいな感じで誰かが進みながら目印をつけた?
見回すがそんな可憐な花はどこにもない。前を歩いている人もいない。
誰が、一体何のために⁉︎
そんなテロップが一瞬よぎるが、考えても、どちらが正解なのかわからない。もしかして、私より前に通過した人が、後ろの人のためと目印を置いてくれたのかも。山にはそういった習慣があるのかもしれない。
思い切って花びらの方へ進む。すると。行手の木の間をすごい勢いでかすめる人影がある。
こっちでいいんだ。
急いでついていくと、また紫色の花びらが一つかみ置いてある。その横を過ぎると、またも
ザン!
と茂みを切るような音がして、黒い人影が斜めに駆け上がっていく。
そんなに大柄ではないが、敏捷で黒い着物に長めの黒髪をしている。易者?いや場所柄、修験者か。
お前にケガさせたら、大変だからな。
全く、女性を喜ばせるのは骨が折れるわ。
左右に飛びすさり、振り返りもせず、そんな憎まれ口を飛ばしてくる。なぜか私の事をお前、などと突き放してくれてるんだけどなんだか気を使ってくれてるようでもあり。あなたは誰だ?
どうやって運んでいるのか、通り道のあちこちにひとつかみずつ花びらがきれいなまま置かれていて、私は迷いなく明るく広い道に出た。
わあ、キレイ!
北九州の町が一望できる。
さっきの人は何者?写真撮影に夢中になるうち、すっかりその案内人のことは忘れ去っていた。