美智子さんは、黙り込んだ私を見て、ちょっとおどけた感じでこうたしなめた。

ぼやぼやしてっとさ、すぐあたしみたいなババアになんだからね!

そしていつもの笑いを響かせた。

またも私がつられて笑うと、コイのように口を突き出し、人差し指でほっぺたをトントンと叩いて輪っかをプカリと浮かせて見せた。

わあ、上手!

私がダスターを握りしめて飛び跳ねると、美智子さんはニヤリと笑ってこう言い放った。

わかったら、さっさと戻って仕事しな。工場で見かけたらアタシがつまみ出すからね!

はーい!

ドアを抜けて店内に向かう私に、美智子さんの大声が追っかけてきた。

が・ん・ば・り・な・あ・あー

振り向いた私は、ピンクのダスターを高く上げて、声援に応えた。

私が美智子さんを見たのはそれが最後だ。あれからもう、15年の月日が流れた。みんな、どうしてるんだろう。

美智子さん、美智子さんの言った通りだったよ。私はあっという間にババアになっちゃった。結局、静岡にいる間はずっとフリーターから抜け出せなかった。でも、母が体調を崩したのをきっかけに地元に戻って来たら、少しずつチャンスが巡って来て、夢だった翻訳・通訳の仕事につけたんだ。あ、大丈夫。母は元気にしています。


…何か不思議。ここには何にもない、と思って地元をでてったのに、結局、ほしかったものは全て地元・北九州にあった。


また、美智子さんに会えないかなぁ。そしたら必ず最初に言うんだ。


あの時は、ありがとうございました。

ってね。ああ、あんな昔の事!?なんて笑わないでよ、美智子さん。大事な事は何度でも、口に出して伝えなきゃ伝わらないんだって、美智子さんが教えてくれたんだからね。